30.平成22年7月、「成田スカイアクセス」が開業。その路線と車両の特徴は?

1. 成田スカイアクセスの路線

  平成22年7月17日のダイヤ改正から都心と成田国際空港を結ぶ「成田スカイアクセス」が開業し、同時に京成電鉄が160km/h運転の新型スカイライナーを投入、日暮里駅と空港第2ビル駅間を最短36分で運転することになり、 船橋など京成線を経由する現行ルートより15分短縮された。
  一方、運賃は、京成上野-成田空港間の運賃が1200円、特急料金が1200円となり、京成線経由より480円高くなるが、これは、共同運行となる北総鉄道の割高な運賃体系が影響しているという。
  下表に都心と成田空港を結ぶアクセス機関毎の到達時間と運賃を示す。

 アクセス手段 都心-成田空港2ビル駅 都心-成田空港駅 運賃等
京成線経由日暮里-成田空港2ビル駅:51分京成上野駅-成田空港駅:59分スカイライナー:1,920円
一般車:1,000 円
スカイアクセス経由日暮里-成田空港2ビル駅:36分京成上野駅-成田空港駅:44分スカイライナー:2,400 円
一般車:1,200 円
JR成田エクスプレス東京-成田空港2ビル駅:50分東京-成田空港駅:53分普通 2,940 円
グリーン:4,430 円
リムジン東京-成田空港:約80分3,000円

  路線は下図にあるように総延長51.4kmで、既設線である京成線京成高砂-北総線印旛日本医大間(32.3km)は最高速度130km/hで走行させるように改良路線のなかった印旛日本医大とJR成田線の成田空港への分岐近くの成田空港高速鉄道線土屋までの区間(10.7km)は 最高速度160km/hで走行させる区間として新規に整備(成田湯川-土屋間は単線)、土屋-成田空港駅間(8.4km)はJR線と平行する形で単線を増設したもので、都心と成田空港を結ぶ新たな路線が完成した。
  京成上野駅までの京成本線12.7kmを加えると64.1kmなり、京成本線経由の69.3kmより約5km、JR総武・成田線の東京駅-成田空港駅間79.2より15km程度短くなる。
  全区間が列車の運行と線路の保有を別会社が行う「上下分離方式」で、京成電鉄が第2種鉄道事業者として線路使用料を支払って全線運行し、北総鉄道、成田高速鉄道アクセス鉄道、成田空港高速鉄道の3鉄道事業会社が線路保有会社である第3種鉄道事業者として線路を貸し付ける。
  なお、既に北総線として開業している京成高砂-印旛日本医大間(32.3km)は、京印旛日本医大止まりの列車は現行通り北総鉄道が運行、同駅以東成田空港まで直通する列車は京成電鉄が運行する。

 京成高砂-小室間 19.8km 小室-印旛日本医大前 12.5km 印旛日本医大前-土屋 10.7km 土屋-成田空港駅 8.4km
最高速度130km/h走行実施のため待避線新設、軌道改良を行う区間最高速度160km/h走行実施のための施設等の整備区間
北総鉄道(株):3種千葉ニュータウン鉄道(株):3種成田高速鉄道アクセス線(株):3種成田空港高速鉄道線(株):3種
京成電鉄:2種

路線図
成田アクセス

2. 成田空港までのアクセス

  成田スカイアクセスが新規に開業したので、京成電鉄の成田空港へのアクセスルートは2系統となり、次のように分離される。JR東日本のルートには変化がない。
○成田スカイアクセス経由
 1最高時速160km/h運転の新型スカイライナーは、毎日上り28本、下り26本を運転。最短で日暮里ー空港第2ビル間は36分、上野−成田空港間は44分で結ぶ。
 2特急料金不要の通勤形電車による120km/h運転の「アクセス特急」は朝ピーク時は約20分間隔そのほかは約40分間隔で、 上り25本下り26本を運転。途中、印旛日本医大や東松戸、青砥などに停車し、都営浅草線と京急線内は最速列車の「エアポート快特」として走る。両空港間の所要時分は最速で現行の110分から103分となる。
○京成線経由
 3有料特急として現在のスカイライナー車両(AE100形)を使用する「シティライナー」を新設し、日中時間帯を中心に運転。従来のスカイラィナーの停車駅に加え青砥に停車する。特急料金は一乗車につき920円、船橋発着は500円の設定。

  これら新設列車の運転により、ピーク時の成田空港到着列車は1時間当たり計9本となる。

3. 成田スカイアクセスの施設の構造等

(1)北総線区間等既設の京成高砂-印旛日本医大間
  最高速度105km/hで走行していたこの区間を最高速度130km/hで走行するための線形改良のほか、優等列車待避等のために、主に次のような改良が行われた。
一般列車を待避させるため、東松戸駅、新鎌ヶ谷駅は現状の島式1面2線のホームを島式2面4線、小室駅は島式1面2線を相対式2面2線とする。
車両基地のある印西牧の原駅では一般列車を待避させるため、本線への渡り線を設置する。
終点だった印旛日本医大駅には一般列車引き上げのため、引き上げ線を2線設置する。

(2)新設区間の印旛日本医大-土屋間
  160km/h運転を行う新設区間は、北越急行ほくほく線と同様国内最速運転であり、踏切はない。
成田ニュータウン北部地域へのアクセスとして成田市松崎付近に成田湯川駅が新たに設置された。駅直近の終点側にJR成田線があり、それを乗り越えるためにレールレベルが地上15m程度となり、駅舎は3階建て構造となっている。 ホームは3階にあり、相対式2面4線で中央の2線が通過列車専用の追い越し線となっている。
印旛日本医大駅から成田湯川駅までの間は複線、成田湯川駅から土屋までの間は単線で、単線の分岐側に 北陸新幹線の高崎駅に初めて採用された160km/hで通過可能な38番分機器が使われている。
信号はほくほく線と同様、G-G信号(高速進行)がスカイライナーに対してのみ現示されるようになっている。軌道は60レール、PCまくら木の下に低弾性パッドを装着した弾性まくら木直結軌道となっている。

改良
(3)土屋-成田空港間
  JR成田線の分岐点である土屋から成田空港までは成田新幹線用に建設された複線高架橋区間であるが、北側のみをJR成田線が空港まで単線で使用していた。今回、南側をスカイアクセスが単線で使用し、複線構造になったが、ゲージが違うので相互に乗り入れることはできない。
列車すれ違いのため、成田湯川駅と空港第2ビル駅とのほぼ中間地点に高架橋を拡幅して信号所を設置した。
京成本線合流部から空港第2ビル駅間は単線で、同駅で列車のすれ違いができず、ホームもスカイライナーと一般列車ののりばをホーム前後で区切って利用していたが、 駅側壁を壊してホームを拡幅し、単式1面1線から島式1面2線ホーム(有効長266m)として線路容量を確保した。
これで京成成田駅方面から2ビル駅までの京成本線は複線になったが、成田空港方面の線路は京成としては単線のままになっている。
終点の成田空港駅は京成、JRとも島式1面2線の計2面4線で、京成では主にJR側の線をスカイライナー、反対側の線を京成線、都営浅草線、京急線で利用していたが、 駅外側の壁を壊して2面3線のホームに拡幅、改良し、成田スカイアクセス線用1面2線ホームと京成本線専用の単式1面1線ホームに分離した。

(4)日暮里駅他
  京成の駅は平成21年10月3日から1階部分の1面2線ホームを上り用の1面1線に、2階を改札、コンコースに、3階に下り「スカイライナー」専用と一般車専用の2面1線ホーム新たに構築し、合計で3面2線に変更された。
  日暮里駅はJRも平成20年3月30日の日暮里・舎人ライナーの開業に伴い、コンコース拡幅やバリアフリー化もおこなわれた。
現在、北口通路の南側および常磐線上り線上に人工地盤を設置し、コンコースの拡幅、エスカレーター増設工事を行っている。
  なお、京成線の下り線が3階へ移転した跡地を利用して常磐線の上り線を東側に振り、常磐線ホームの拡幅も行なわれるといわれている。
  京成高砂駅についても成田スカイアクセス開業後の踏切遮断時間増加対策の関連工事として成田スカイアクセス開業に先行して平成22年年7月から金町線は高架化された。

4.JR東日本の動き

  JR東日本は成田空港アクセス特急として平成3年3月19日の運行当初より専用の253系特急電車を投入している。国際空港アクセス列車であることから、外国人乗客を意識して、英語名のNarita ExpressからN'EXと称している。
  平成21年10月1日からは、京成に先行する形で新型のE259系特急電車を順次投入し、快適な移動空間の提供と共に、各方面への列車を増発している。
  平成22年6月30日までには老朽・陳腐化した253系が引退し、翌7月1日からは全ての列車がE259系での運行となっている。
  基本的に東京駅-成田空港駅間を30分毎に運行するが、1時間毎になる時間帯もある。ほとんどの列車が横浜方面と新宿・池袋・大宮方面を発着するため、東京駅において増解結を行うことが多く、東京駅-成田空港駅間は全列車が12両編成で運転されている。
  所要時間は東京駅-成田空港駅間が最短53分であり、新形式車両の投入による時間短縮は行われていない。

5. 京成とJR東日本の車両比較

  成田スカイアクセス線開業後は、京成の新AEスカイライナーとJR東日本のE259系「N'EX」が都心と成田を結ぶ優等列車として競い合うことになる。それぞれの仕様は、
  京成 新AEスカイライナー
  JR東 E259系「N'EX」
に紹介しているが、利用者に関係の深い項目を比較してみる。
形    式京成 新AE形スカイライナーJR東 E259系
編     成8両 6M2T(将来10両 6M4T)6両 4M2T
定     員8両 398人6両 290人(G:28人)
軸重(定員平均)10.1t10.2t程度
最高運転速度160km/h130km/h
起動加速度2.0km/h/s2.0km/h/s
減 速 度(常)4.0 (非)5.2km/h/s5.2km/h/s
編 成 出 力140kW(16M)=2,240 kW175kW(24M)=4,200 kW
車 体 寸 法全長:中間車19.0m 先頭車19.5m
全幅:2.76m
全高:3.64m
全長:中間車20.5m 先頭車21.43m
全幅:2.945m
全高:3.655m
シートピッチ1,050mm (座席幅)1,040mm1,020mm (座席幅)1,050mm
(G車)1,160mm (座席幅)1,100mm
車内案内表示器26インチLCD17インチワイドLCD 2台並列
コンセント腰掛脚台の前後に2箇所各側肘掛け先端に1箇所

・AE形特急電車「新型スカイライナー」
  車両のデザインは山本寛斎氏で、白の「ストリームホワイト」をベースに先頭と上部を藍色の「ウインドブルー」とし、窓下にブルーのラインを配した。
  都営浅草線への乗り入れは計画されていないため、AE100形とは異なり前面貫通扉は設置されていない。
  車体はアルミ合金製ダブルスキン構造で、車体寸法はAE100形と同じ長さ19m(連結面)、幅2.76m、高さ3.64m。
  全車普通車の8両(6M2T)固定編成で定員は398名、全車禁煙。4号車には自動販売機とカウンターを設けたサービスコーナーとAEDを、5号車には車いすスペースと大型の多機能トイレ、洋式便所、小便所および洗面所を設けている。
  シートピッチはAE100より10mm拡大して1050mm、座席幅は20mm拡大して1040mmとなっている。脚台の前後に2箇所ずつACコンセントを設けており、背面折りたためみテーブルはリクライニングを最大傾斜してもA4ノートパソコンが使用可能な寸法となっている。
  出入口の幅は200mm拡大して1000mmとし、大型荷物を持つ人に配慮した。側引戸の戸閉装置は空気式で、30km/h以上では耳ツン対策から室内側から4本のシリンダで押さえる扉押さえ装置を採用した。
  客室端部の通路上には営業用の鉄道車両では最大級となる26インチ液晶ディスプレイを設置し、日本語、英語、中国語、韓国語の4か国語で表示を行う。また、運転台に設置したカメラから前面展望の風景を映すことも可能とした。
  各車両の成田側に付いている2段式の荷物スペースは、AE100形の約2倍の1520mmへ拡大し、客室から見える位置に配置するとともに防犯カメラを設置した。
AE

 ←上野
号車8号車7号車6号車5号車4号車3号車2号車1号車
車種M1cM2ST1T2M1'M2NM1M2c
定員40人56人56人42人52人56人56人40人
空車重量40.0t39.0t33.0t33.0t40.0t38.5t39.5t37.5t


・E259系特急電車「成田エクスプレス」
  車両のデザインは白をベースに赤、黒を使った253系のイメージを踏襲しているが、運転台は高運転台となり、貫通扉のホロふたには「N'EX」のロゴが入って先頭のイメージはかなり変わっている。
  253系では3両が1つの編成単位となっていたが、E259では6両編成を基本とし、併結して12両編成でも運転するため乗客の車内移動を考慮して貫通構造となっている。
  車体はアルミ合金製ダブルスキン構造で、車体寸法は長さ20m(連結面)、幅2.946m、高さ3.655mで、床面高さは50cm低い1,140mmとなっている。
  基本6両(4M2T)固定編成で定員は290名(うち、G車28名)。全車禁煙でトイレは両先頭車にあるがり6号車は多目的トイレがになっている。シートピッチは253系と同一の1,020(G:1,160)mmである。
  6号車には多目的室と車内販売準備室を設置した。多目的室は車椅子に乗ったままで入室が可能なように、出入口の寸法を1,230mmと広くとった。また、室内の折りたたみ椅子は、倒すとベッドとして使用することも可能である。
  普通車には2箇所に、グリーン車には1箇所に側扉があり、幅は935mm(有効開口幅926mm)である。
  荷物棚はE257系と比較して高さを40mm下げ、荷物を載せやすいように配慮した。253系とは異なり、蓋は設けられていない。
  各座席とも可動式のヘッドレストを装備し、側肘掛先端にはノートパソコンや携帯電話の充電などに利用することを考慮したパーソナルコンセントを設けた。座席裏側には折りたたみ式テーブルと網製のシートバックポケットを設けたが、G車はスライド式、普通車は背面テーブルの位置を見直ししている。
  客室端部と中央部の通路上には17インチワイド液晶ディスプレイを左右に2面設置し、列車の行き先や停車駅案内のみならず、成田空港発のフライトインフォメーションや首都圏各線の運行情報などを日本語、英語、中国語、韓国語の4か国語で表示を行う。また、運転台に設置したカメラから前面展望の風景を映すことも可能とした。
  客室内は天井を床面から2,305mmと可能な限り高くとり、空調・排気用のダクトは天井には設けていないため車内情報表示器を設置した場所でも床面から2,030mmの高さを確保している。
  客室端部の出入台側には、253系と同様に大型の荷物置き場を設置した。荷物置き場と客室の間には仕切りを設けているが、仕切り扉は設けていないため、客室内から荷物置き場を直接目視することが可能である。荷物置き場は3段になっており、 下段にはスーツケースを縦置きに、中段にはスーツケースを横置きに収納することが可能な寸法が確保されている。また、乗客自身が操作するダイヤル式ワイヤ錠を、グリーン車の荷物置き場には24個、普通車では荷物置き場1箇所につき16個(1両で32個)設置し、荷物室天井には防犯監視カメラを設置することで、さらなるセキュリティの向上が図られている。
  このほか、屋根上のアンテナで受信した中波放送(AMラジオ)および超短波放送(FMラジオ)の電波を車内に輻射する装置や同じく屋根上のWiMAXで車内のWiMAX送受信機を通じて無線LANアクセスポイントに接続、車内で公衆無線LANサービス(UQ Wi-Fi、BBモバイルポイントの2サービスに対応)を利用可能にしている。 このWiMAX設備は液晶案内装置へのデータ伝送にも利用している。
E259

 ←東京
号車1号車2号車 3号車4号車5号車6号車
車種TC'M'M M'-500M-500TSC
定員40人56人56人56人 54人28人
空車重量38.4t38.0t36.5t 38.0t37.0t38.9t

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