4. 車両の力行制御とは? 変電所との関係は?
1. 電車の加速特性
JR西日本の東西線に投入されている主力通勤電車の基本スペックは、
- ステンレス20m長車体の7両(3M[電動車]・4T[付随車])編成。
- 1編成の運転整備重量202t、荷重16t/車(性能検討用:180%相当?)として編成質量は314t。
- VVVFインバータ制御誘導電動機駆動。電動機の定格出力155kW。
- 起動加速度2.7km/h/s、最高速度120km/h。
となっています。
車両の性能を判断する方法は色々ありますが、列車の速度とその速度での加速力(引張力)を示す速度−加速力特性は
最も重要なものの1つで、右図はその東西線の通勤電車のものの一部です。
赤い線が加速力を示す線で、速度に応じて一般に次のような呼び方をします。
@定引張力域
一定の加速力で加速するように制御する範囲。
起動時の加速度で最高速度まで加速すると、P(出力)=F(加速力)×V(速度)から大きな出力が必要になり、変電所の容量等の面で無駄になるので、
ある速度(右図では約35km/h)以上になると、P=FV=一定 となるAの定出力域に移行するよう車両の制御装置で制御します。
A定出力域
加速力×速度(=出力)が一定になるように制御する範囲。
車両として最大の出力を発揮する速度域です。
B特性域
加速力が速度のほぼ2乗に反比例して減少してゆく範囲。速度は上がっていきますが、出力はAより段々減っていきます。
2. 加速度と引張力の関係
質量1tの物体を1km/h/sの加速度で押すためには31kgfの力が必要(f = m・αからは28.34でよいが、 回転部加速力を考慮して31とする)なので、7両編成314tを加速するためには@の範囲では
2.7km/h/s×31×314t=26,300kgf
の力が必要。モーター1個あたり、約2,200kgfになります。
速度−引張力特性では縦軸にこの引張力(たとえば、モーター1個当たり)を表示する例が多いので、上記の式を使って加速度に変換することができます。
また、たとえば15‰の登り勾配を上るとき、15/31=0.48(km/h/s)となり、この分だけ車両の加速度が減るというような使い方ができます。
3. 定出力域での出力
Aの範囲では、車両として次のような最大出力を出します。
35km/h×26,300kgf=9.7(m/s)×26300×9.8/1000=2,500kW/7両編成
車両仕様上は、電動機の出力=155kWですから、編成では
155kW×3M車×4個/M車=1860kW/7両編成
となり、2,500kWより小さい値ですが、2,500kWは最大値、1860kWは1時間定格で、その線区全体を運転した場合の一種の代表値です。実際には走行シミュレーションで
モーターの定格等の諸数値を決めるようです。
4. 電圧と電流
電流、電圧の細線(スケールなし)がありますが、これは電動機にかかるもので速度に応じて制御されます。交流電動機では周波数も制御されます。これらはあくまで
電動機1台にかかるもので、車両として集電しているパンタグラフ点では電圧は変動を無視すればき電電圧で一定(直流なら1500V)で、集電電流が変化することになります。
5. 1次電流
パンタグラフ点での集電電流です。負荷により多少変動しますが、直流き電では架線には1500Vの一定電圧がかかっており、電流はこの線のように変化します。
電圧は一定ですから、電流が最大である35〜60km/hの範囲で最大電力を消費しているのがわかります。
6. 変電所の立場から車両を見る
電車内ではモーターの電圧と電流を細かく制御していますが、車両に電力を供給する変電所からみると単純に、
起動〜35km/h | | 0kW→2,500kW にほぼ一定に増加する。 |
35〜60km/h | | 2,500kW で一定。 |
60km/h以上 | | 2,500kW から特性に応じて減っていく。 |
と速度に応じて変動する負荷があると見えるだけです。
変電所では、P(出力)=F(力)・V(速度)でなく、P(出力)=E(電圧)・I(電流)で見ますから、電圧1500Vで電気を送る場合は
最大電流は、編成合計で2500kW/1500V=1670A となります。
実際には、車両の空調機等の補機類や各機器等の損失分を見込むのでもっと大きな電流が流れます。
交流き電の場合は、力率を考慮しなければなりません。サイリスタ位相制御車では電気車の負荷力率は力行時0.7〜0.8、回生時−0.4〜−0.5程度でしたが、 最近のPWM制御車は力行時1、回生時−1を目標に制御されているそうで、VVVFインバータ制御車はこの面でも優れています。
7. 電圧降下
電車が走ると、変電所→列車間の電流×架線抵抗 により電圧降下が発生します。また、損失は電流の2乗に比例しますから、例えば1500Vき電を750Vき電で送電すると、
同じ出力を送る場合、2倍の電流が流れることになり、損失は4倍になることになります。この面から大容量輸送の場合はき電電圧を高くした方が有利です。
何編成かが同じ変電所内に入るので、変電所要量が一定なら、電圧降下の限度を超えないように運転本数を制限するか、車両の出力を制限するか、変電所の間隔を狭くするか判断が必要になります。
少量輸送の場合は、これらの問題より建設費を抑える面から600V〜750V第三軌条き電方式をとる例が多いようです。
交流き電方式では、力率やき電方式(AT等)が絡んでくるので単純ではないようですが、原理的には同じと思っていいと思います。
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