13. ボルスタレス台車とは? 台車の構造と主な部品のメカは? 台車だ行動とは?

1. 台車の構造と構成機器

  台車は乗客等を乗せた車体を下から支持しながら軌道上を円滑に走行するという重要な役割があり、台車枠、車輪・車軸、加速・減速するための電動機やブレーキ、軌道から来る振動を緩和し、かつ走行中の運動を滑らかにするためのばね装置等から構成されています。
  車軸の折損などは即脱線につながるなど、安全確保上極めて重要な機器が多く、それも電気回路のように2、3重系とすることが難しいという一方、軽量化、保守量の低減等の要請に応じながらも長期間使用しても問題が生じないようにしなければならず、厳しい設計と製造を行う必要があります。
  下の図は最近のある新幹線用ボルスタレス台車の例です。在来線の台車も基本的には同じような構造になっています。その構造と主な部品の名称、役割は下図のようになっています。
新幹線用ボルスタレス台車部品の名称、役割
台車枠 上から見るとH形をしており、外側の側はりとまくら木と平行な中心部の横はりから構成される。
輪軸 軸端に軸受、軸箱があり、車輪、大歯車、歯車箱軸受が取り付いている。万一表面に傷が生じても車軸折損の至らないように残留圧縮応力が残るような熱処理がされている
車輪 新幹線の車輪径は910mmだったが、300系以降、軽量化のため860mmが採用された。
 車輪の踏面(レールと接触する部分)には台車が線路中心に復元するような勾配が付いている。この踏面の形状は台車の走行性能に大きな影響を与えるが、新幹線では高速走行にあわせて1/40(円錐踏面)と小さめで、100系以降は円弧踏面になっている。
主電動機 現在はそれまでの直流電動機に変わって小型軽量で保守も簡単な誘導電動機が使われている。横はりに固定されている。
歯車形たわみ継手 車軸と一体になった歯車箱の小歯車軸と台枠に付いた主電動機軸の相対的な変位を吸収しながら回転とトルクを伝達する。
歯車装置 車軸に付いた大歯車と歯車箱内の小歯車を潤滑油と一緒に納めたもので、電動機の回転とトルクを車軸に伝える役割をする。
ディスクブレーキ装置 車輪の両側に付いた鍛鋼製ディスクに焼結合金製ライニングを押しつけて摩擦力によってブレーキ力を得る。てこ式が用いられていたが、最近は直動タイプのキャリパ式が使われている。
まくらばね 台車−車体間のばねで、乗り心地をよくするため空気ばねが利用されている。横はりの中にも空気が入っており、補助空気室の役割も果たしている。空気ばねの高さは乗客の多寡に関わらず自動高さ調整弁で一定に保たれている。
ヨーダンパ ボルスタレス台車に特徴的なもので、高速走行時の走行安定性を維持するためのもので、だ行動(ヨーイング)を防止する。
軸ダンパ 軸ばねと並列に組み込まれ、走行によって伸縮する軸ばねの振動を減衰させる
軸ばね 軸箱−台枠間のばねで、一般にコイルばねが利用されている。外からは見えないが、ゴムの入ったものもあり、防音と高周波振動の絶縁の役割を担っている。
軸箱 軸受を内蔵していて、車軸を支えながら車輪・車軸を円滑に回転させる。アルミを使用して軽量化、密封軸受を使うようになり小形化された。
軸箱支持装置 台車側はり−軸箱間にあり、台車−軸箱間でけん引力・ブレーキ力伝えるもので、軸ばねの動作に応じて上下方向にも動かなくてはならない。色々な方式があるが、前後、左右方向に所定の支持剛性を得るとともに「ガタ」が生じないようにゴムを介して取り付けられている。その剛性が走行安定性に大きな影響を与えるので、適値の選定が重要である。
車輪踏面清掃装置 ブレーキ時にある一定速度以下になると車輪踏面に清掃子(パッド)を押しつけて車輪の表面を清掃して車輪・レール間の粘着係数を増大させて滑走しにくくするために取り付けられた。新幹線騒音の騒音源の1つである転動音の減少にも役に立っている。
増圧シリンダー 新幹線の特徴で、空気圧を油圧に変換、圧力を増大させてそれをディスクブレーキに供給している。
けん引装置 ボルスタレス台車の特徴的なもので、車体−台車間のけん引力・ブレーキ力を伝えるもの。方式にいくつかあるが、この台車のような(1本)リンク方式が一般的になってきている。

2. 台車構造の変遷

  鉄道車両と台車は切っても切れない関係で、その歴史を考えると車両の用途に応じた種類、構造は膨大な数になりますが、現在よく目にする車両でも大きく変化してきており、その特徴をまとめてみました。
  下の図は、旧国鉄からJRの代表的な通勤電車の台車3タイプを比較したものです。いずれも固定軸距2100mm、車輪径860mmは共通です。
  @の101系、113系等用DT21動力台車は、かつて通勤、近郊形の電車等に数多く使われていた心皿を持つ揺れまくら式台車で、ペデスタル式軸箱支持装置となっていました。この軸箱支持装置は軸箱を軸箱守で前後左右に支持するもので、上下方向はその接触面でしゅう動するため、走行に伴い遊間が生じ、場合によってはがたがたと台車が左右に揺れるだ行動を起こすこともありました。
  Aの205系等のDT50動力台車は、国鉄最初のボルスタレス台車で、円筒ゴム式軸箱支持装置として軸箱周りに遊間が生じない構造としました。けん引装置は積層ゴム方式です。
  BのJR東日本の最新の通勤電車である209系に採用されたDT61動力台車は、営団地下鉄や民鉄でも採用例の多い軸はり式軸箱支持装置を採用するなど更に軽量化等の改良を重ね、E231系などにも採用されています。
  上の3つの台車の図を比較してみると、構造の簡素化、部品点数の減等の変化がよくわかると思います。これ以上は構造的にはどうしようもない程度まで来ているような気がしますがどうなるでしょうか。
台車の特徴台車の構造
@101系等用DT21動力台車
(昭和32〜)

 ・ 揺れまくら式台車
 ・ ペデスタル式軸箱支持装置
 ・ 円錐踏面
 ・ 軸ばね、まくらばねはコイルばね
 ・ リンク式片押し踏面ブレーキ
 ・ 直並列・界磁制御直流電動機
A205系DT50動力台車
(昭和59〜)

 ・ 国鉄初のボルスタレス台車
 ・ 円筒ゴム式軸箱支持装置
 ・ 円弧踏面
 ・ 軸ばねはゴム、まくらばねは空気ばね
 ・ ユニット式片押し踏面ブレーキ
 ・ 添加励磁制御直流電動機
 ・ 積層ゴム式けん引装置
B209系DT61動力台車
(平成05〜)

 ・ ボルスタレス台車
 ・ 軸はり式軸箱支持装置
 ・ 円弧踏面
 ・ 軸ばねはコイル、まくらばねは空気ばね
 ・ ユニット式片押し踏面ブレーキ
 ・ VVVFインバータ制御誘導電動機
 ・ 1本リンク式けん引装置

3. ボルスタレス台車

  上の図のように、最近はボルスタレス台車が当たり前になってきているので、わざわざボルスタレス台車と注記しなくてもよくなりつつありますが、それまでの台車と比較して、ボルスタレス台車はどのような違いがあるか、どのような構造、特徴があるかを見てみましょう。

  右図の上は、新幹線の0系や200系に採用された台車で、下は300系以降に新たに採用されたボルスタレス式台車です。
  この台車の前は、上の図にあるような揺れまくら式台車(スイングハンガ式台車)と右図の上のようなまくらはり台車(ダイレクトマウント台車ともいい、空気ばねがまくらはりの上にある図のようなタイプと下にあるタイプがある)とがありました。
  まくらはり式台車は、車体と台車枠の間にまくらはり(ボルスタ)があり、車体−台車間のけん引・ブレーキ力の伝達は、

車体−ボルスタアンカー−ボルスタ(まくらはり)−中心ピン−台車枠

となります。
  一方、ボルスタレス台車は、車体と台車枠の間にまくらはり(ボルスタ)がなく(ここから、ボルスタレスと名が付いた)、車体−台車間のけん引・ブレーキ力の伝達は、

車体−中心ピン−けん引装置−台車枠

となります。

  台車は曲線を走行するとき車体に対して回転しなければなりませんが、走行安定性の点からは回転に対する適当な抵抗も必要で、まくらはり式台車ではその機能をまくらはり−台車横はり間にある側受の摩擦に持たせていました。空気ばねは車体−まくらはり間にあり、横剛性(復元力)の大きいものが使われます。
  しかし、ボルスタレス式台車が回転するためには空気ばねが横方向にずれるような変形をしなければならず、低横剛性の特殊な空気ばねが開発されました。図を見ると、空気ばねの形の違いが判ります。
  また、高速走行時の走行安定性が問題になるような新幹線、特急電車、高速運転の通勤電車では、だ行動防止のためヨーダンパが付いています。ボルスタアンカーとヨーダンパは同じところに付いていて同じような形をしていますが、その機能と目的は全く違います。
  図を比較してみれば判りますが、まくらはりがないためその分部品が減り軽量化できますし、台車枠(横はり)等台車構造全体を見直すことによって更に軽量化、保守量の低減が可能になります。
  更に、不確かな摩擦に頼る側受がないため、理論解析と実際の走行の再現性が向上し台車の性能向上に寄与しました。
  新幹線では高速走行時の走行安定性を確保するため、固定軸距が2500mmと長く、回転抵抗も大きめにする必要がありますが、逆に曲線部では横圧による車輪フランジ摩耗が進みやすくなります。しかし、空気ばねの横剛性とヨーダンパの特性を工夫することである程度解決できます。
  つまり、ヨーダンパの特性をだ行動のような高い振動に対しては固く、曲線通過時のようにゆっくり変化する場合は柔らかくなるように工夫すればいいからです。このような工夫は側受構造では不可能でした。

4. 台車の主な構成部品

(1) 空気ばね(まくらばね)
 車体と台車間に使われるまくらばね(2次ばね)は、台車から車体に伝わる振動を緩和しながら柔らかく車体を支持して乗客の乗り心地を良いものにするものですが、固いと乗り心地が悪いし、柔らかすぎると空車時と満車時の荷重条件の変化によってたわむ範囲が大きくなり、ホームとの大きな段差や極端な場合は連結器が外れるなどの問題が生じます。
  旧国鉄の113系通勤電車などには金属製のコイルばねが使われ、新幹線や特急のみに空気ばねが使われていましたが、乗り心地の向上、空気ばねには自動高さ調整機能を持たせることができる、絞りを設けることにより適当な減衰力を持たせることができるということから、中央線に投入された201系以降は通勤電車でも空気ばねが標準装備になっています。
  空気ばねには大きく分けて次のような3つのタイプがあります。
(3段)ベローズ式空気ばね ダイアフラム式空気ばね 低横剛性空気ばね
  昔のゆれまくら(スイングハンガ)式台車に使われているもので、普通3段の蛇腹状になっており、コイルばねと同様に上下方向のばね作用のみしか期待できないので、台車と車体の変位に対する復元力は揺れまくら吊りの傾斜角(6°〜7°前後)でもたせます。   0系新幹線等ダイレクトマウント式台車に使われているもので、隔膜状になっており、車体が変位すると空気ばね内の左右の受圧面積が変化し、復元力が作用します。   最近広く使われているボスルタレス台車用空気ばねで、上下方向のばね作用を持ちながら左右方向の剛性を柔らかくして台車・車体間の変位を吸収するようにしています。
  上面板に前後方向と左右方向とで異なる勾配を付けて回転方向に柔らかく左右動に対して適度に固くすることで異方向の剛性を持たせることも行われています。

 図には記載されていませんが、空気ばねにのみ空気が入っているのではなく、台車の横はり等を補助空気室にしてその間に絞りを設けてダンピング作用を持たせています。その絞りを可変絞りとすることで特性を変化させ、ローリングのような大きな動きに対しても減衰力が働かせるようなことも行われています。
 空気ばねには前にも述べたように自動高さ調整が可能で、その役割を担うのが自動高さ調整弁です。車体・台車間を結ぶ調整棒の中間に弁を設け、満車で空気ばねが下がると空気配管から空気が供給され、逆に上がると弁から空気が放出されて一定の位置を保つものです。通常走行時の上下振動では動作しないように、動作遅れ時間3±1秒、不感帯10±1mm程度を持っています。
 また、片側の空気ばねの空気が急に抜けるような異常時に車体の急な傾斜を防ぐために、左右の空気ばねは差圧弁を介してつながれており、一定の圧力差(1.5kg/cm2程度)以上の圧力差が生じたときには高圧から低圧側に空気が流れてバランスをとります。更に、万一空気ばねがパンクしても下に緩衝積層ゴムがあり、極端に車体が低下することはありません。また、台車には空気ばねの大変位を抑制するためのストッバゴムや異常上昇止めが取り付けられてまいす。

(2) けん引装置
 台車・車体間を結合し、駆動力や制動力を伝達する機構を、ボルスタレス台車ではけん引装置と呼んでいます。
  けん引装置には営団8000系の門形板ばねや旧国鉄205系の積層ゴム式等色々な種類がありましたが、保守性や重量等から最近の新製台車では下の図のようなZリンク方式または1本リンク方式がほとんどです。
  Zリンク方式の場合は、まくらはりを小さくしたようなけん引はりがついています。
  前後力を確実に伝達しながら、車体・台車間の上下、左右、ヨー(台車旋回)等の動きを拘束しないようにリンクにはゴムブシュ等を入れ、かつ振動吸収のためのダンパや大きな変位に至らないようにゴム製のストッパ等を取り付けるなどを工夫がされています。
Zリンク式けん引装置1本リンク式けん引装置


(3) 軸箱支持装置
  軸受を内側に保持しているのが軸箱で、その軸箱に付いている軸ばねの台車の側はりとの上下方向の動きを許容しながら前後と左右方向については台車枠にしっかりと支持するものが軸箱支持装置です。
  旧国鉄を始め、通勤電車から特急まで広く用いられていたのがペデスタル式といわれるもので、軸箱守で軸箱の上下動を案内し、前後左右動を抑制し車輪と台車枠との相互関係を正しい位置に保持します。軸箱守には軸箱の上下方向の案内をするため前後・左右の側に軸箱がしゅう動する滑らかな面を持っています。摩耗が進んでガタが大きくなると1軸蛇行動が発生し、左右動が激しくなる点がありましたが、構造や組み立てが簡単で広く用いられました。
  高速走行のために遊間のない構造が昔から考えられていました。しっかりと支持するといっても、ばねの上下動に伴い変形しなければならないためある弾力性が必要で、その前後、左右の剛性は車両の走行性能に大きな影響を与えるため、色々な工夫がされてきました。
  その方法には色々な種類があり、ペデスタル式を含めて主なものを表にまとめてみました。外見は同じように見えても内部構造が微妙に違ったりしており、細かに見ればもっと多いかもしれません。
ミンデン式アルストム式
  ミンデンドイツ式などともと呼ばれ、戦後ドイツ国鉄に登場し、板ばねを用いる方式の先駆けとなったもの。
  軸ばねによる台枠の上下動によって水平支持板は多少前後に動くので、一端は前後方向にたわむことのできる垂直のバネ板を介して側はりに取り付けている。
  2本リンク式などとも呼ばれ、緩衝用のゴムブシュを介して軸箱両側と側はりを結んでいる。
  台車の長さを短くできる。
IS式ペデスタル(軸箱守)式
  高速走行のため、0系新幹線以降で採用された。
  ゴムブシュで側はりとつなぐことにより前後、左右に適当な剛性を持たせることができる。
  ミンデン式の板ばねに比べてばねの応力も低くできる。
  0系、100系、200系に採用されている。
  軸箱守で軸箱の上下動を案内、前後左右動を抑制し車輪と台車枠との相互関係を正しい位置に保持する。軸箱と接触する部分には耐摩レジンすり板を取り付けている。しゅう動部の摩耗によってガタが生じると1軸蛇行動が発生しやすくなり車体の激しい左右動につながる恐れがある。
  普通から特急の電車や客車、機関車等広く採用された。
積層ゴム式円筒案内式
  シェブロン(chevron)式とも呼ばれ、ゴムと鋼板とを交互に加硫接着して積層ゴム状にし、圧縮方向には固く柔らかいせん断方向で軸ばねの作用をさせるもの。
  貨物等比較的低速の車両に用いられている。
  軸ばねがなく、ゴムのせん断力だけで上下荷重を支えるものもある。
  シュリーレン式とも呼ばれ、密封されたしゅう動部に油を入れて摩擦や摩耗対策とダンパ効果を持たせる湿式と耐摩レジンをしゅう動部に用いたり積層ゴムを組み込んで適当な剛性を持たせる乾式がある。
  京急新1000形:乾式ゴム入り
  JR東海700系、JR九州885系:コイルばね円筒積層ゴム併用式
モノリンク式 円錐積層ゴム式
  アルストム式の変形で、軸箱と台車枠を1本のリンクで支持する。
  SUミンデンタイプより前後支持剛性を低減でき、曲線横圧低減・軋り音対策可能。台車荷重装置不要。
  営団06、07系。阪神9300系。埼玉高速2000系等 
  ゴムと鋼板を円錐状に積層させたもので、柔らかいせん断方向で軸ばねの作用をさせ、圧縮方向には固い。
  コイルばねは不要で、ゴムの減衰力を期待できる。
  JR九州817系 JR西キハ126系
軸はり式支持板式(SUミンデン式)
  歴史は古いが、普通電車から新幹線まで現在最も採用例が多い。
  ゴムブシュの代わりに、積層ゴムを用いたものもあり、近鉄等では積層ゴムブシュ片側支持方式といっている。
  JR東E231系。東急5000系。西武3000形。京王9000系。JR西500系新幹線
  近鉄23000系。
  IS式の一方の板ばねを中心側に持ってくることにより軸箱と台車側はり間を2枚の板ばねで固定する。
  JR東は支持板式、民鉄はSUミンデン式といっているが、緩衝ゴムの形が違っている。
  台車長を短くできる。
  名鉄300系等:SUミンデン
  JR東E2等:支持板式

  現在のところ、軸はり式を採用する例が最も多そうですが、鉄道会社、車両(台車)メーカーによってそれぞれ特徴があり、数少ないこだわりのみられるところです。
  最近の新幹線を見ても、JR東海が700系にコイルばね円筒ゴム併用式を、JR西日本が500系と700系レールスターに軸はり式を、JR東日本がE2系等に支持板式を使っており、同じ目的ながら個性が表れています。
  コイルばね円筒ゴム併用式はJR東海の300系新幹線に採用されたもので、円筒案内式に分類されると思いますが、その断面は右図のようになっています。
  積層ゴムによって前後、左右の荷重を支持しながら適正な剛性を与えるようになっています。
  上下荷重については定員乗車高さの時はコイルばねで支持し、それから変位した分はコイルばねと円筒ゴムばねとの両方で分担して支持するようになっています。

  最近使用例の多い軸はり式軸箱支持装置のゴムブシュの形は図のようになっており、ゴムの形状や固さによって前後、左右に適正な支持剛性を与えるようになっています。円筒形のゴムブシュの代わりに積層ゴムブシュを用いたものもあります。

(4) 駆付輪軸
  下の図はある新幹線車両の駆付輪軸の断面です。主電動機の回転、トルクを車軸に伝える駆動装置(減速歯車)、それを車輪に伝えながら車両の重量を支える車軸、車両の全重量を受けてレールと接触しながら安全に車両をガイドする車輪などから構成されています。一般の電車も基本的な構造は変わりありません。

それぞれの構造がどうなっているかを見てみましょう。

(a)歯車装置
  歯車箱は密閉型で大歯車側は円錐ころ軸受で車軸に、小歯車側は歯車箱吊りで台車枠に防振ゴムを介して取り付けられていて、中には潤滑油が入っています。 主電動機とたわみ継手を介してつながる小歯車も円錐ころ軸受けで歯車箱に固定されており、大歯車との間で円滑な動力伝達が行われるようになっています。
  歯車の歯形はねじれ角20°のはすば歯車で、はすば歯車は歯すじをつる巻き状にしたもので、通常の平歯車と比べてかみ合い率が上がるため歯のかみ合いが滑らかになり、低騒音で強度が高い歯車です。
  これは電車の場合歯車比が大きいため平歯車だと歯のかみ合いが不連続になるので小歯車の歯数を減らすことが難しく、歯車比を大きくとれませんが、はすば歯車は歯のかみ合いが連続的で回転力の変動が少なく、歯車外形に制限を受ける場合でも歯形を小さくして高い歯車比を得ることができるからです。
  歯車比は小歯車の歯数を1とした場合の大歯車の歯数で表され(大歯車数/小歯車数)、旧国鉄の湘南形113系通勤電車で17:82=1:4.82でしたが、JR東日本E231系の通勤形では7.07に、新幹線では0系が29:63=1:2.17でしたが、JR東のE2系が28:85=3.04、JR西の500系で2.79です。特急はこの中間ぐらいの値です。
  同じ容量の電動機を用いる場合、電車の引張力は歯車比に比例し、速度は反比例しますので、駅間距離の短い通勤線区を運転する場合は均衡速度は低いが高加速運転ができるように歯車比を大きく、反対に駅間距離の長い線区を運転する場合は高速運転ができるように歯車比を小さくとっています。誘導電動機では直流電動機と比較して小形で大きな回転数を採用できるので、一般に歯車比は大きめで高加速と高速運転面で有利で、広い範囲での性能の設定が可能ですが、実際の歯車比はその走行線区の特徴、求められる車両性能、電動機の定格等を総合的に判断して決められる点は変わりありません。

(b)車軸
  車軸は車輪や大歯車がはめこまれ、線路上を高速で回転しながらモーメントやねじり力を受ける厳しい環境で使用される重要な部品ですが、安全のため太くするとばね下重量の増加等によって高速走行ができなくなることにもつながり、細いと折損の危険が出ます。
  車軸の疲労き裂は輪座(ボス座)の端部に生じる微少相対滑りによって発生することが知られており(フレッティング コロージョン:Fretting Corrosion)、これをなくすため新幹線では開業以来様々な研究がなされ、車輪の内ボスを車輪座端から6mmオーバーハングさせて車輪を圧入するG仕様軸が完成しました。
  1970年以降はこの軸が使われるようになり、輪座に発生する疲労き裂による車軸の取り替えが大幅に減りました。 更に、300系以降は、バネ下重量の軽量化、超音波探傷の精度向上の目的から直径60mmの中ぐり加工を施した中空の車軸になっています。
  この最も重要な輪座の強度設計方法については、JISE4501「鉄道車両−車軸強度設計方法」に規定されており、疲れ安全率は、1.0以上とすることになっていますが、この場合20年間以上は疲労によって折損することがないといわれています。
  高速で走行する新幹線用車軸の素材は機械構造用炭素鋼材S38Cで、熱処理としては疲労強度の向上のために車軸のほぼ全長にわたって誘導加熱焼き入れ、焼き戻しが行われており、車軸表層部に残留圧縮応力が生成されるようにしています。
  運転区所では車軸内部や表面に傷等の欠陥がないか、中実車軸に対しては端面からの垂直探傷が、中ぐり軸に対しては内面からの斜角探傷が、車両工場等では車輪をずらすか外すかして表面の磁粉探傷が行われており、新幹線では深さ0.15mm以上のキズがあったときなどは取り替えることになっています。

(c)車輪
  車輪は車両の全重量を支え、レールと直接接して激しい衝撃を受けながら回転するもので、十分な強度を有すると同時に安全に走行できるものでなければなりません。軽量化に対する要求にも応えなければなりません。
  かつて経済的な理由から輪心に厚さ70〜80mmのタイヤを加熱膨張させはめこんで輪止で脱出を防止するタイヤ付車輪が使われていましたが、踏面ブレーキでタイヤが膨張し緊締力が小さくなって弛むことやタイヤが薄くなると割れやすくなる、経済的にもあまり差がなくなってきたことから1120mmと比較的直径の大きな機関車に限定されました。近年では機関車も含めほとんどが一体車輪になっています。
  この一体車輪も、上の図のように板部が直になった一体圧延車輪(板車輪)と板部表面に凹凸をつけて強度を保ったまま軽量化を図った波打車輪がありますが、電車等には広く波打車輪が使われています。新幹線は車輪側ディスクブレーキ方式を採用しているので上の図のように板車輪です。
  新幹線のブレーキディスクは当初NCM鋳鉄製の半円形のディスクをピンで接合して1枚の円盤としたものでしたが、ディスクの熱による放射状の亀裂が発生し摩耗よりもこの亀裂による取り替えが多かったため、色々な検討がなされ、強度を鍛鋼に摩擦特性を鋳鉄に持たせるために両者を張り合わせたクラッドディスクの試験も行われましたが、300系以降現在は強度や熱亀裂に強いSNCM(ニッケル・クロム・モリブデン)鍛鋼が使われています。その形状も2分割形から1体形に改良され更に熱変形に対する能力が向上しましたが、通常優先的に使用する電気ブレーキがフェール(失効)した場合はたとえば最高速度300km/hから停止までディスクブレーキのみで負担しなければならず、その能力は最高速度を決定する際の大きな要素にもなります。
  変わった車輪としては、防音車輪や弾性車輪があります。防音車輪は板部をゴムで挟んだものや急曲線走行時に発生するキンキンキン・・という高音のキシリ音対策として車輪の外枠部分の内側にステンレス製の(ゴム巻き)リングをはめ込むものがあり、後者が一部民鉄に採用されてきています。弾性車輪は輪心とタイヤの間にゴムを介在させるもので、荷重をゴムの圧縮力で支えるものとせん断力で支えるものがあり、新幹線でも騒音対策、対軌道等の観点から試験をしたことがありましたが、転動音全体を下げるほどの効果が見られなかったため実用化には至っていません。更に、平成10年6月3日、ドイツのICE1が金属疲労などによる内部の亀裂により弾性車輪のタイヤが破損して脱線、多数の死者を出す惨事が発生し、弾性車輪の信頼性に対する目が厳しくなっています。

(d)車輪の踏面形状
  車輪がレールと直接接する部分の形は車輪の踏面形状(タイヤコンタ)といい、車両が安全に走行するために大変重要なものです。
  右の図は、その一般的な形で、脱線しないように内側にフランジがついています。その高さ、幅、角度は図中に示した場所の寸法です。
  このフランジから踏面にかけては円曲線や勾配がつけられており、この組み合わせによって一般に次のように呼ばれています。
円錐(えんすい)踏面:踏面の中央付近から外側が円錐状(断面が直線勾配)のもの
円弧(えんこ)踏面:踏面がいくつかの円弧(断面が円曲線)の組み合わせからなるもの
円筒(えんとう)踏面:踏面の中央付近から外側が円筒状(断面が水平)のもの

  複合型もありますが、この踏面形状は、
    ・脱線に対する安全性が高いこと。
    ・走行安定性が良く、曲線通過性能に優れていること。
    ・摩耗が少なく、形状の変化や削正時の無駄が少ないこと。
    ・分岐器通過時に問題がないこと。
等の条件を満足する必要があります。しかし、高速走行安定性と曲線通過性能や脱線防止と分岐器通過のように両立させるのは難しい条件があり、試行錯誤が続けられてきました。また、車輪側だけでは決められない要素もあり、たとえば、営団日比谷線ではある時期に円弧踏面を本格的に採用しようとしましたが、他の多くの車両が円錐踏面で走行していたことからレールの摩耗が円錐踏面に近い形状で進み、円弧踏面の車両は滑走が多く発生したため、踏面形状の試行錯誤を繰り返しましたが、最終的には円弧踏面で統一したということです。
  旧国鉄、JRを主体に採用された主な踏面形状を次に示しますが、鉄道事業者によって異なる場合があります。
基本踏面N踏面在来線円弧踏面修正円弧踏面
 旧国鉄で修正を経ながら大正14年2月に制定され、その後広く使われてきた1/20の勾配を持つ円錐踏面。  鶴見事故等を契機に2段リンク2軸貨車の脱線や踏面摩耗防止のために昭和43年制定されたもので、脱線防止のためやや円筒形に近く、フランジを高さ30mm、角度65°とした。
 摩耗防止策としては、レールと常に1点で接触するようにレールの摩耗形状を考慮して形状を決めた。
 50Nレールを対象としており、踏面の等価勾配を1/20より大きくして接触点での左右半径差を大きくすることによって輪軸の自己操蛇性能 の向上と横圧低減を図った。
 この踏面形状は205系等前後左右にガタのない軸箱方式を持つ車両によって初めて採用可能になった。
 60kgレール用に円弧踏面を修正したもので、直線走行時のレールとの接触点をできるだけフランジ根本から離し、曲線走行時は車輪径差を確保している。 また、摩耗防止のためできる限り2点接触を避け、かつレールとの接触応力を下げるように円弧の段数を増やしている。

  この表以外にも、CS(Curving Performance Hunting Stability) 踏面というものもあり、それは、JR東海が中央西線の383系特急用に1996年開発した形状で、営業線の実レール形状への適合に重点を置き、在来線円弧踏面に800Rと80Rの円弧を加えたものです。在来線円弧踏面並の曲線通過性能を維持しながら直線の走行安定性と、車輪削正周期の延伸をめざしています。

  新幹線で採用された車輪踏面形状は次表のとおりです。
円錐踏面円弧踏面400系踏面
  0系から200系まで採用された形状。走行安定性のために1/40の勾配を採用した。   円錐踏面は摩耗しやすい傾向にあるため、100系以降に採用されている。   新幹線走行時の高速安定性と在来線の急曲線通過性能を両立するために開発された。
  在来区間に新幹線踏面形状の車両が走行しても2点接触の問題が生じないようにした。

(e)軸受
  車両用の軸受は大きな荷重を支えながら色々な方向から衝撃的な荷重も受けますが、同時に軽量化や保守コストの低減等の要求にも応えなければなりません。
  その軸受には、すべり軸受ところがり軸受がありますが、すべり軸受は貨車等にホワイトメタルを使った平軸受の例がありますが、現在の電車等ではころがり軸受が主力です。ころがり軸受は、転動体、内輪、外輪、保持器から構成され、転動体の形から玉軸受、コロ軸受に分けられます。
  最近の鉄道車両の軸受は密封円筒ころ又は密封円錐ころ軸受が主体になっていますが、それぞれの形状や特徴をまとめてみました。
複列円筒ころ軸受+玉軸受
(新幹線の例)
つば付き複列円筒ころ軸受
(新幹線の例)
密封複列両つば付き円筒ころ軸受(在来線の例) 密封複列円錐ころ軸受
新幹線の例)

  車両用の軸受には、大きく分けてラジアル(半径方向)荷重とスラスト(軸方向)荷重がかかり、一般に、高速に適しラジアル荷重に対する負荷容量や保守面で有利な円筒ころ軸受とスラスト荷重を受け持つ玉軸受の組み合わせがよく使われていました。
  図1は、初期の新幹線で採用された軸受で、複列円筒ころ軸受と玉軸受を組み合わせています。潤滑は油浴潤滑で特別に作られた信頼性の高い添加タービンオイルを使っています。このタイプの軸受では、緩衝ゴムやサラバネを組み込むことにより、遊間の解消や車軸と台車間の横方向動きの緩衝の機能を持たせることができます。 また、内輪と外輪が分離できるため内輪の取り外しに誘導加熱方式を使うことができるので軸の損傷も少なく内輪転走部の検査も容易です。
  しかし、玉軸受の分だけ車軸が長いため、軽量化のため次に検討されたのがつば付き円筒ころ軸受です。内輪又は外輪のいずれかに両つばがあり、他方が片つばの片つば式円筒ころ軸受は一方向のアキシアル荷重をある程度負荷することができます。スラストをつばところ端面のすべり面で受けるため、優れた加工技術が必要です。両方につばのある両つば式円筒ころ軸受は両方向のスラストを受け、左右動が小さいため高速走行性能に優れています。
  図2は、300系の以降の新幹線で採用された両つば付き円筒ころ軸受です。
  これらはいずれも軸箱を有していて軸受が外部に露出していることはありませんが、軸箱のスペースやその重量面で不利で、組立等に熟練した技術が必要です。
  これに対して、密封軸受というものがあり、これは軸受そのものにシールを設けて通常の軸箱を要しないようにしたもので、完全に管理された環境でグリース封入や密封を行えるので信頼性が高くメンテナンスフリーが可能になります。
  図3は、国鉄201系以降の通勤電車などに採用された密封複列円筒ころ軸受です。図は両つば式です。
  図4は500系以降の新幹線などに採用されてきた密封式円錐ころ軸受です。円錐ころ軸受はラジアル荷重と同時にスラスト荷重に対する負荷容量が大い、摩擦トルクが小さく高速回転や低騒音・低振動用途向きである、内径に比較して外形の小さな軸受でもスラスト負荷能力が大きいため外形寸法を小さくできる、という点などが再評価されています。フランスの高速新幹線TGVも円錐ころ軸受を採用しており、内径は新幹線軸受より大きいのですが、外径は小さく軽いということも影響しているものと思えます。
  かつて旧国鉄でころ軸受が使われだした時期はこの円錐ころ軸受が結構使われていましたが、検修で取り外す際冷間で引き抜くしかないため車軸や軸受が損傷しやすい、正確な調整が難しいという保守上の問題、負荷荷重の面や横方向の遊間がほとんどないので車体の横動が出やすいといった面で円筒ころに劣るということから電車では使われなくなり、貨車や客車が中心でした。
  しかし、新幹線のより高速化に伴い、円錐ころ軸受は軸方向遊間を非常に小さくすることができる、輪軸が左右方向に変位したときに復元性が期待できる、いうメリットから高速走行安定性の向上が図れること、外形を小さくすることが可能で軽量化が可能なことから図4のようなJR西日本の500系新幹線等で採用されるようになり、かつてのデメリットをメリットに変えて復活してきています。
  密封つば付き円筒ころや円錐ころ軸受は生産技術・品質の向上、専用のグリースがメーカーで封入され、オイルシールによりその漏れや軸受の損傷、グリースの変質などの原因となる塵埃や水分の進入を防止できる構造となっていることから、「鉄道の技術上の基準を定める省令」でも非解体による軸受の外観や取り付け状態の目視検査とすることができることとされており、省力化の効果も大きいものです。

5. 台車だ(蛇)行動とその防止策

 台車だ行動とは、台車が走行しながら左右に振動(ヨーイング)する状態で、車輪と車軸が一体になって回転し車輪踏面に勾配がある場合に必然的に発生するものです。従って、軌間可変電車で使われているような左右独立に回転する台車では通常発生しません。
  このだ行動は、その限界速度を超えると急に激しくなり、収束することがないため新幹線のような高速運転の車両ではこれを押さえるため、また発生する限界速度を上げるために様々な工夫がされてきました。

(1) 1軸だ行動
 1本の輪軸が平行な2本のレール上を転送する右図のような場合を考えます。
  Gを車軸中心線、A、Bを中正位置における車輪とレールの接触点、A、BをGが横変異y、車軸が鉛直軸まわりにに角変位ψをした場合の接触点とします。
  AB間の距離を2a、車輪直径を2r、踏面勾配をλとすると、
   A点の車輪直径 r1=r+yλ
   B点の車輪直径 r2=r−yλ となります。
  車輪、車軸は一体で回転するので車輪周速はA車輪の方が早く、Gを中心に車軸を時計回りに回転する力が働き、中心に向かいますが、中心がB車輪側に行くと逆に反時計回りに回転する力が働き、右に行ったり左に行ったりするので「だ行動」といっています。
  この運動は運動方程式をつくって解くか幾何学的に求めることができ、幾何学的だ行動といっています。輪軸に牽引力や制動力が働かないで一定の速度で走っている場合に成り立ちます。
  この運動は車輪踏面に勾配があるからで、車軸中心が中心から外れても元に戻る力が自然に働くので都合が良く、「自己操舵(舵を取る)機能」があるといっています。
  その運動の様子とだ行動の周期S1は右の図のようにります。
  しかし、速度が高くなるとけん引力による慣性力が大きくなり、この影響を考慮するとこの運動は不安定になり振幅が大きくなって行き、ついには脱線に至る可能性が出てくるのでやっかいです。この振幅を拡大するエネルギー源は輪軸を前進させるエネルギーで、これが車輪とレールの接触面におけるクリープ力を媒介として振動のエネルギーに変換されるためです。

(2) 台車だ行動と防止策
  2つ以上の輪軸が台車枠によって前後、左右の相対変位を拘束されている台車の場合も不安定な運動となり、不安程度は速度とともに急激に増大し、台車の質量m及び回転半径izが大きいほど、だ行動の波長Sが小さいほど大きくなります。ただし、iの影響はあまり大きくありません。
  円錐踏面の車輪を持つ輪軸は不安定な運動ですから、これを防止するためには運動を安定にする方法を考えなければならなりません。
  車輪踏面の勾配がない円弧踏面にする事が先ず考えられますが、走行によって踏面が摩耗するため踏面を正規に保つことが難しいこと、自己操舵機能が働かないため曲線通過時の横圧やフランジ摩耗の点で問題があることから実用化されていません。
  次に、慣性力に逆らう弾性復元力を与えることによって運動を安定にすることが考えられます。
  下左図のように、車軸を台車に前後及び左右に弾性支持した場合の運動を調べると、下右図のような4つの限界速度があり、k2の小さなところでは下部及び上部の安定区域が存在します。
  従って速度を徐々に上げて行くと最初は安定ですが、あるところで第1の不安定域に入ります。この不安定区域は車体が大きく揺れる形のもので、これを過ぎると再び安定域になります。
  更に高速になると第2の不安定域に入ります。この不安定な運動はほとんど車軸だけが激しく動く形のもので、この不安定域に入る限界速度はk1が大きいほど高くなります。この限界速度以上では振動は発散するばかりで再び安定域には入ることがなく、脱線の危険性が急激に高まります。
  一般に、輪軸の左右方向の支持剛性は小さく、前後方向の支持剛性は大きくすると限界速度が上がります。
  実際の新幹線台車では、軸受、軸箱支持装置、ばねやダンパーの構造やその定数を工夫することにより、極力限界速度を上げることに成功し、実用範囲ではだ行動が発生することはまずありませんが、支持部品の劣化・脱落、踏面勾配の変化等によって発生する可能性もあり、台車検査、全般検査等で常にその状態を検査、修繕しています。


6. バネ下重量

 バネした重量とはレールに最も近いバネすなわち軸バネから下の質量で、輪軸、軸箱装置及び電動車の場合は主電動機、駆動装置の一部分が含まれます。
  普通の車両ではバネ下部分の振動は30〜60Hz程度のものが多く、車体の弾性振動を誘発して乗り心地を害し、レール及び道床を振動させて軌道破壊の原因ともなりますので注意が必要です。
  レール継ぎ目における軸箱の上下加速度及びそれにバネ下質量を掛けたバネ下部分の慣性力についてみますと、振動加速度はバネ下質量が大きい方が小さいのですが、慣性力は逆にバネ下質量が小さい方が小さいといわれています。
  従って、ばね下重量を軽くした方が軌道に与える影響は小さくなり、軌道保守量も減ってきます。車両全体の重量、つまり軸重(車両重量の1/4、その半分が輪重)を減らすことも重要です。
  更に、軌道に不連続点があると、そこに大きな輪重が発生しますが、バネ下重量が大きいほど大きくなり、かつて951形試験電車で様々な台車で走行試験中に著大輪重が発生し、軌道破壊に至ったことがありました。その後、新幹線ではばね下重量の軽減の重要性が再認識され、中空軸台車が試作、試験されましたが実用化はされませんでした。

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