24.40周年 東海道新幹線の開業と0系新幹線電車の技術

1. 東海道新幹線開業

  昭和37年4月20日に新幹線モデル線区が当時の新幹線総局の直属の現業区間として発足し、2両編成のA編成、4両編成のB編成による走行試験が鴨宮モデル線(綾瀬-小田原間)で実施され、これをもとにして量産車の修正設計、製作が行われた。
  量産車第1陣6両が完成したのは、開業を半年後にひかえた昭和39年の2月末で、この編成はしばらくの間、A、B編成に続くC編成として試験線に投入され、3月2日から営業車に組み込まれるまでの間試験車として走行し、機能等の最終確認が行なわれた。
  昭和39年10月1日の開業を目ざし、車両製造会社5社による車両の製作も急ピッチで進められ、昭和39年3月〜9月に量産第1次車180両、同年6月〜9月第2次車180両の合計360両が製造され、4月から8月にかけて東京(品川)、大阪(鳥飼)の各運転所に配置された。当初は6両編成の1次車での開業が考えられたが、12両編成に変更され2次車が追加発注されたもので、同一の車両である。
  車両の呼称については、搬入当初は各会社毎に第1号編成、第2号編成などと区分していたが、開業後の車両管理を円滑に行なうという観点から、製造会社のアルファベットの頭文字をとって区別することとし、次のように定められた。
日本車輌製造(株)NIHONSHARYOの「N」
汽車製造(株)通称のKISYAGAISHAの「K」
川崎重工業(株)Kは汽車製造と同じになり、川でRIVERの「R」
(株)日立製作所HITACHIの「H」
近畿車輌(株)Kは汽車製造と同じになり、近はNEARだが、これも日車のNと同じになるので、SH0RTをもじって「S」

  その結果、日車はN1〜6、汽車はK1〜6、川重はR1〜6、日立はH1〜6、近車はS1〜6と30編成の呼称が決められ、前面窓助士側や運転室側扉などに表示された。
  なお、昭和42年の6次車からは東急車輛(株)「T」が加わって6社となったが、昭和47年には汽車会社が川崎重工に吸収合併されて5社に戻っている。
  車両製造会社は一般的に自ら車体、台車を製造しているが、電気機器等の機器、多種多様な部品はそれぞれの専門メーカから集めて組み立てを行い、車両として必要な機能を満足させる能力を持っている会社であり、全てを自ら製作しているわけではない。車両は多種多様な部品から構成されており、たとえば車輪、車軸は住友金属、電動機は重電会社各社のようにそれらは専門のメーカーが開発、製造したものであり、新幹線電車は国鉄の設計技術者、車両製造会社、機器・部品メーカーが一体となって開発、完成させたものである。
  量産車の編成が順に揃うに従って、乗務員の訓練運転等が始まり、7月15日には東京、大阪の各運転所から東京駅、新大阪駅に初入線、同25日には東京〜新大阪間全線試運転(所要時間10時間)、そして、順次営業ダイヤにより所要時間の短縮を行ないながら、8月25日にはATC装置を使用した特急ダイヤによる全線試運転(4時間)に成功し、9月4日、東京運転所に15編成、大阪運転所に15編成、計30編成360両の配置が完了した。9月15日には藤井技師長を団長とする全線の開業監査が実施されて鉄道システムとして全て完成されたことが確認され、それ以降慣らし運転をかねた試乗が行われ、大変な人気を博した。
  昭和39年10月1日、午前6時00分、日立製H2編成の「ひかり1号」が東京駅19番線を出発し、ここに、計画より半年ほど遅れたが東京オリンピックに間に合わせるべく国鉄の総力を注ぎ込んだ世紀の大事業が完成するとともに、世界に誇る新幹線の栄光ある歴史がスタートした。
  この時は路線の軟弱地盤や初期故障を考慮して計画より1時間遅い東京〜新大阪間「ひかり」4時間、「こだま」5時間の運転時間で、1・2次車30編成による1−1ダイヤ(1時間に「ひかり」1本、「こだま」1本)、列車設定1日上下合わせて60本で営業が開始された。
  運転系統は、名古屋、京都のみ停車する「ひかり」と全駅停車の「こだま」(区間運転有り)の2系統のみで、それぞれ運賃は異なっていたが、いずれも全車指定席となっており、1等車2両(7、8号車)、2等車8両、2等車・ビュフェ合造車2両の12両編成で、「ひかり」、「こだま」は共通編成だった。
  1、2次車では次のような形式の車両が製造され、それぞれ1番から順に番号が割り振られた。
製造時期Ms
15
M's
16
Mc・M'c
21・22
M
25
M'
26
M'2
262
MB
35
両数
139.3〜39.91〜301〜302〜60(偶)1〜59(奇)2〜60(偶)180
239.6〜39.91〜301〜59(奇)2〜60(偶)201〜2601〜59(奇)180

  開業時の新幹線電車の編成を下図に示す。特に形式名は付いていなかったが、後に東北・上越新幹線200系が登場することになり、東海道・山陽新幹線電車は0系と呼ばれるようになった。
  なお、100系は200系の登場より遅かったが、0系の後継として「予約」された形式で、東海道・山陽に奇数、東北・上越に偶数の形式名をつける考えだったが、国鉄が無くなり、600系はJR東になってE1系となり未使用の番号に、800系は九州新幹線に使われるなどの情勢の変化が有ったが、100、300、500、700は東海道・山陽新幹線で使われている。900番代は事業車や試験・試作車用の番号である。



  編成を構成する各車両の形式と主な車内設備は次の表のとおりで、この表には後に登場する形式も含んでおり、着色した形式が1、2次車に組み込まれたもの。 定員はシートピッチの拡大によって後に1列5名の減があった。
形式略号称号 定員 車内設備記事
15Ms特別中間電動車 64乗務員室、荷物保管室、和便所2、小便所1、洗面所222次車から和式便所の1つを洋式に変更
16M's特別中間電動車
(集電装置付)
68乗務員室、荷物保管室 
21Mc普通制御電動車 75(先頭車)運転室、和便所2、小便所1、洗面所2 
22M'c普通制御電動車
(集電装置付)
80(先頭車)運転室、乗務員室 
25M普通中間電動車 100和便所2、小便所1、洗面所2 
252M2 95乗務員室、業務用室、和便所2、小便所1、洗面所24次車から登場 30次車から和式の1つを洋式に変更
254Mk(M4) 85売店、電話室、車販準備室、和便所2、小便所1、洗面所2 「こだま」10次車からビュッフェ車1両を置換え
257M7 100和・洋式便所各1、小便所、洗面所10次車から和式の1つを洋式に変更
26M'普通中間電動車
(集電装置付)
100乗務員室、業務用室(自動販売コーナー) 
262M'2 110 267も同じ 最大の定員
27MA普通中間電動車 85業務用室、電話室、車販準備室、休憩室、和便所1、小便所1、洗面所1、従業員用洋便所1 17次車から登場 食堂車とユニットを組む
35MB 普通食堂中間電動車 40半室ビュフェ、売店、電話室、車販準備室、和便所2、小便所1、洗面所2 半室ビュフェ座席13
36M'D食堂中間電動車
(集電装置付)
 食堂17次車から登場 食堂座席42
37MB普通食堂中間電動車 431/3室ビュフェ、電話室、業務用室、和便所1、身障者対応洋便所1、小便所1、洗面所2 22次車から登場
375MB 381/3室ビュフェ、電話コーナー、業務用室、車販準備室、和便所1、身障者対応洋便所1、小便所1、洗面所2 27次車から登場

  1次車というように、○次車というのは車両計画に基づいて国鉄からメーカーに発注された車両発注単位で、発注は輸送動向や予算等を考慮して決められたが、0系の製造が中止された昭和60年度までの22年間で38次車までが発注されており、単純に計算すると約7ヶ月毎に新車を発注していたことになる。当然新規発注の際にはそれまでの問題点の改良や時代の要請に応じた技術やアコモデーション等の見直しが織り込まれて発注されたが、0系新幹線電車の基本システムは変わらなかった。各次車ごとの投入車両と特徴等については別途紹介する。
  外形上は大きくは次のような変化があった。

0番台0番車 広窓、1〜21次車 昭和51年まで製作
1000番台小窓、22〜29次車 初期製造車両の置換え用で、51〜55年まで製作。窓ガラス破損対策で小窓化と電制範囲拡大
2000番台小窓、シートピッチ拡大 30〜38次車 初期製造車両の置換え用で、56〜61年まで製作。当時登場した200系に合わせてシートピッチ拡大(940mm→980mm)、FRP製窓枠きせ、座席改良等のアコモ改善

 華々しく開業した新幹線だったが、開業後様々なトラブルに遭遇したため、昭和40年4月〜7月にかけて製造された同じ構成の3次車10編成については、主に次のような対策を講じ、1・2次車も国鉄浜松工場で改造された。
トンネル突入時の気圧変動による「耳ツン」対策として客室区画を主体に気密扉としていたが、トンネル通過時や扉故障などにより客室貫通通行不能になったり、便所に閉じ込められたり、最悪はトイレの排出口から空気が逆流し汚水が吹き上がるというようことが起こったため、 ほろと側引戸を気密構造にし、全配水管に気密保持の排水機構を採用、気密区画を全車室に拡大変更。
床下機器箱の継目部などから気圧変動などで浸水し絶縁不良、走行能力低下や停電事故が発生したため、床下機器や屋上ガイシの絶縁強化
レール湿潤状態での初列車などで空転や滑走が多発したため、滑走検知装置の改良等の制御回路の改良や踏面清掃装置の取付け

  これ以外にも、関が原地区で床下機器に大量の雪が付着し、暖かい地区に入ってから落ち始め、バラストを跳ね飛ばし、特にトンネル内で跳ね上がって床下機器に損傷を与えたり、窓ガラスの破損を引き起こすという問題が発生した。名古屋駅で作業員による雪落としや昭和42年11月に完成したスプリンクラーによる散水によって雪の舞い上がりを防止する程度しか有効な対策が無く、雪害対策については今日まで未解決のままとなっている。
  開業以降、多少のトラブルはあったが、高速鉄道輸送の魁として華々しい活躍が続いて行き、新幹線の成功は欧州の鉄道先進国にも影響を与え、フランスのTGVやドイツのICE等の高速鉄道開発に結びついたといわれる。100系や300系の登場によって表舞台から降りるまでの25年間という長期にわたり「死亡事故0」という輝かしい実績とともに東海道・山陽新幹線の安全、安定輸送を担い、日本経済の発展に大きく寄与した。

2. 0系新幹線電車の技術

(1) 基本仕様

  0系1、2次量産車の基本仕様は次表のとおりで、主電動機の容量が試作車の170kWから185kWに増強されている。その後12両編成が16両編成となり食堂車が導入されるなど編成の変化や使用実態に合わせた機器等の改良等が行なわれた。それらについては別途紹介する。

電気方式交流25,000V 60Hz電圧変動範囲+20% −10% 短時間−20%
車両編成方式全電動車方式 M+M'の1ユニット方式
車体、ぎ装方式鋼製溶接構造 床下機器吊下げ方式
1両当り重量軸重16トン 以下
主要寸法長さ25,000(先頭車25,150)mm 幅3,380mm 高さ3,975mm 床面高さ1,300mm パンタ折り畳み高さ4,490mm
編成定員1等:132名 2等:855名 合計:987名
最高速度210km/h(連続定格速度167km/h)
主変圧器TM200 外鉄形送油風冷不燃性油使用 1次:1,650KVA 2次:1,500KVA 3次:150KVA
主整流器RS200 シリコンダイオードブリッジ結線強制風冷式 連続定格1500kW 
主電動機MT200 自己通風式補極付き直流電動機 連続定格185kW(415V・490A・2200RPM) 脈流率50% 界磁分流率10%
台  車DT200 空気ばね2軸ボギー IS式軸箱支持ウイング式軸バネ(ダンパ付き)車輪径910mm 固定軸距2,500mm
基礎ブレーキ各車輪側ディスクブレーキ 空気−油圧変換(増圧シリンダー)
駆動装置可とう歯車付1段減速(WN)式 ギア比29:63=1:2.17
力行方式主変圧器低圧タップ切替(25ステップ)による段制御  電動カム軸式制御装置
ブレーキ方式抵抗段制御発電ブレーキ(17ステップ)併用SEA電磁直通空気ブレーキ 電気ブレーキは50km/h以上
保安方式単周波ATC
サービス電源主変圧器3次巻線:単相220V 電動発電機:単相100V 補助整流装置:直流100V インバータ:単相100V(安定)
空気調和装置AU56、AU57 ヒートポンプ式天井分散ユニット
汚物処理貯留式汚物タンク式

建築限界と車両限界


(2) 車体

  新幹線用電車の車体は、210km/hの高速運転を行なうため、鋼製の構体を軽量化のために右図のような張殻構造にするとともに強度、空気低抗低減、車両の気密化、機器の床下ぎ装による低重心化など特別の考慮が払われている。
  設計条件としては、
  ・ 定員の200%の垂直荷重
  ・ +−0.1gの変動荷重
  ・ 静的圧縮荷重は連結面高さで100t
  ・ 気密鋼体とし、500mmAqの圧力差に耐える
というものである。
  車体の大きさは連結面間25,000mm、幅3,380mm、高さ3,975mm(高さは在来車とほぼ同じ)、連結面高さ1,000mm、床面高さ1,300mmで、普通車は横5列座席配置となっている。
  車体側面には非常脱出用のドアが付いてる。前後の車体間にはローリングが生じたり、曲線や分岐器を通過するときに相対位置が急に変化しないように油圧抵抗で振動を減衰する車端ダンパ装置が 付けられている。

ア.空気抵抗低減

  列車抵抗は機械抵抗と空気抵抗とからなるが、空気抵抗は速度の2乗に比例するもので、低速ではあまり問題とならないが、200km/h程度になると影響が大きくなる。このため、車体は先頭を細くした 流線形とした。この程度の速度では空気抵抗に大きな影響は無いとされたが、外観の美観の見地も含めて車体下部にはスカートを、連結部にほろを設けている。
 0系新幹線電車の走行抵抗の実験式は次のとおりで、第1項が機械抵抗、第2項が空気抵抗に関する部分といわれており、空気抵抗が速度の2乗に比例することを示している。この式から、車両の軽量化も走行抵抗低減に大きな効果があることが分かり、様々な軽量化努力が払われている。
明かり区間1.2+0.022×V)×W+(0.013+0.00029×L)×V2
トンネル区間1.2+0.022×V)×W+(0.05+0.00034×L)×V2
 ここで、V:列車速度[km/h] W:列車質量[t] L:列車長さ[m] 

イ.車体の気密

 高速でトンネルに進入すると車内外に圧力差を生じ、乗客の耳に不快感を与える。このため車内を気密化するよう考慮されている。換気装置の空気出入り口は、トンネルの出入口で地点検知情報を受け外気締切弁で自動的に開閉されるようになっていたが、トンネルの多い山陽新幹線では換気量が不足するため、高静圧の連続換気装置に変更された。車体も気圧変化による応力に対し、十分耐える構造になっている。

ウ.軽量化

  台わく、支柱などに軽量形鋼を使用し、さらに外板に1.6mmの耐候性高張力鋼の薄板を採用し、屋根は側板と連続しており、1.2mmの耐候性鋼板を張るなど、軽量化を図っている。

エ.車体外観と客室

  21形式の車体外観、車内割付、主な寸法は下図のとおりである。



(3) 台車

  車両が高速になると、台車が左右に激しく動く台車蛇行動という現象が発生しやすくなり、乗り心地が悪化するだけでなく、それ以上速度を上げると脱線につながる危険があり、速度向上の限界となる。この限界速度を極力上げる必要があるため、蛇行動防止について徹底した研究が行なわれた結果、右図のような高速用台車のDT200台車が開発された。
  だ行動防止対策として、在来線電車より軸距を長く(2100→2500mm) 、踏面勾配を小さく(1/20→1/40)しており、さらに、車体支持方式は側受方式として全ての荷重をこの側受で受け、そのすり板の摩擦力で台車の回転に対して適当な抵抗を与えて高速走行時の走行安定性を確保している。
  この台車は2軸ボギー台車で、まくらばね装置としてダイヤフラム式空気ばねを用いているが、この空気ばねは振動を吸収して良好な乗り心地を確保するとともに、特性として有する横剛性による横方向の復元力を持っている。
  台わくはプレス鋼板溶接組立構造で、軽量かつ十分な強度を有し、応力集中による亀裂などが入らないように配慮している。
  車体、台車間のけん引・ブレーキ力の伝達は台車の枕はり(ボルスタ)と車体を結ぶボルスタアンカーによって行なっている。
  空気ばねが付いた枕はりはその補助空気室の役割も持っており、下側の中心ピンは台車の横はりに貫入され車体・台車間の回転を許容しながら力を伝達する。
  駆動装置は精密に加工されたはすば歯車を用いた一段減速式で、電動機との間は可とう歯車継手(WN継手)が用いられており、ギア比は2.17となっている。
  車輪は一体圧延車輪で、高速運転に十分耐えるように設計されている。また車輪輪心の内外には、高速からのブレーキにも耐える耐熱性に優れたディスクブレーキが取り付けられている。軸受は油潤滑のころ軸受を用いている。
  だ行動に与える影響の大きな軸箱支持装置には新たに開発したIS(アイエス)式軸箱支持装置が用いられており、ゴムブシュによって遊間が無く支持され、前後左右の支持剛性も最適になるように設定されている。

  この台車の側面、正面図と構成部品の概要は以下のとおりである。

  台車各部品の機能と役割は次の表のとおりである。
 
台車枠 一体溶接構造で、上から見ると日の字形をしており、外側の側はり、端ばりとまくら木と平行な中心部の横はりから構成される。
輪軸車軸は中実軸で、万一表面に傷が生じても車軸折損に至らないように残留圧縮応力が残るように表面を熱処理をして疲労限度を高めたS35Cである。軸端に軸受、軸箱があり、車輪、大歯車、歯車箱軸受が取り付いている。
車輪 0系の車輪径は910mm。300系以降、軽量化のため860mmが採用された。
車輪の踏面(レールと接触する部分)には台車が線路中心に復元するような勾配が付いている。この踏面の形状は台車の走行性能に大きな影響を与え、大きいとだ行動が発生しやすくなる。新幹線では高速走行にあわせて1/40(円錐踏面)と小さめで、100系以降は円弧踏面になっている。
主電動機 連続定格出力185kWの直流直巻電動機。台車横はりに固定されている台車装荷式である。
歯車装置 車軸に付いた大歯車と歯車箱内の小歯車を潤滑油と一緒に納めたもので、電動機の回転とトルクを車軸に伝える役割をする。減速歯車比は2.17である。
歯車形たわみ継手 車軸と一体になった歯車箱の小歯車軸と台枠に付いた主電動機軸の相対的な変位を吸収しながら回転とトルクを伝達する。可とう歯車継手を用いたいわゆるWN式である。
まくらばね  台車−車体間のばねで、2次ばねともいわれており、乗り心地をよくするため空気ばねが利用されている。ダイヤフラム式で、横剛性による復元力を持たせている。枕はりの中にも空気が入っており、補助空気室の役割を果たしている。空気ばねの高さは乗客の多寡に関わらず自動高さ調整弁で一定に保たれる。
自動高さ調整装置  空気ばねの高さを荷重の変化にかかわらず一定に保つもので、荷重によって下がれば空気を補充して元の高さに戻す。左右の空気ばね間には差圧弁があり、万一規定以上の圧力差が生じた場合には一方の空気を他方に流して車体の以上傾斜を防ぐ。
側受  車体の全重量をこの側受で受けながらそのすり板の摩擦で台車の回転運動を適当に抑制する。側受間隔は1,300mmで摩擦係数0.12の特殊カーボン入り耐摩レジンを使用している。回転抵抗が大きいと高速走行安定性に優れるが曲線でレールとフランジ間に大きな力が働き磨耗がすすむ。信頼性は高いが摩擦係数は天候等の条件で変化するためコントロールできず台車性能の向上にネックになっていたが、300系以降は側受のないボルスタレス台車になって回転抵抗を制御できるようになった。
ボルスタアンカー 台車の枕はり(ボルスタ)と車体を結んで空気ばねの変位を吸収しながら車体−台車間のけん引力・ブレーキ力を伝えるもので、両端にはゴムブシュが入っている。ガタがあると回転摩擦力が有効に働かないため大だ行動が発生しやすくなる。
左右動ダンパ 枕はりと車体間に並列に組み込まれ、走行によって発生する車体・台車間の振動を減衰させる。
左右動ストッパ  車体・台車間の横方向の動きが一定以上大きくなったらその動きを拘束するもので、ゴムによって柔らかく受け、変位量に比例した復元力を持たせている。
軸箱支持装置  台車側はりと軸箱間にあり、台車−軸箱間でけん引力・ブレーキ力を伝えるもので、軸ばねの動作に応じて上下方向にも動かなくてはならない。色々な方式があるが、IS式という方式が採用された。前後、左右方向に所定の支持剛性を得るとともに「ガタ」が生じないように板バネがゴムブシュを介して取り付けられている。その剛性が走行安定性に大きな影響を与えるので、適値の選定が重要である。
軸ばね 軸箱−台枠間のばねで、1次ばねともいわれる。一般にコイルばねが利用されている。
軸箱 軸受を内蔵していて、車軸を支えながら車輪・車軸を円滑に回転させる。
軸箱温度スイッチ 各軸受前蓋内に取付けられており、軸受が異常な温度上昇(140℃)となった時、運転台に警報を出す。
増圧シリンダー 新幹線の特徴で、各台車に2個付いており、空気圧を約18倍の油圧に変換、圧力を増大させて各車輪に1個ずつある油圧シリンダに送るもので、この油圧シリンダとブレーキテコによって、てこの原理で銅系焼結合金製の制輪子(ブレーキライニング)をブレーキディスクに押し付ける。
基礎ブレーキ装置 車輪の両側に付いた鋳鋼製ディスクに焼結合金製ライニングを押しつけて摩擦力によってブレーキ力を得る。てこ式が用いられている。
車輪踏面清掃装置 ブレーキ時にある一定速度以下になると車輪踏面に清掃子(パッド)を押しつけて車輪の表面を清掃して車輪・レール間の粘着係数を増大させて滑走しにくくするために取り付けられた。新幹線騒音の騒音源の1つである転動音の減少にも役に立っている。

   まくらばね用空気ばね組立、軸箱組立、WN継手の断面を次に示す。
まくらばね用空気ばね組立
(ダイヤフラム式)
軸箱組立
油浴潤滑円筒コロ軸受+スラスト玉軸受)
QD250 可とう歯車継手(WN継手)
22次車以降はコイルバネを廃止し、ストッパゴム付き空気クッション式のQD251。

(4) 車両電気システム及び機器

ア.電気方式

  新幹線の16両編成1列車の出力は約12000kWに達し、非常に大きな電力を要するため、電源系統、き電用変電所および電車線路における電圧降下も大きくなるので、き電電圧は高くすることが望ましく、国際標準規格の25KV単相交流商用周波数が採用され、周波数も60Hzに統一された。また、架線の電圧変動が大きいと負荷状態によってはパンタ点で所定電圧が得られなくなり力行困難になるため、電圧変動範囲は標準電圧25kVに対して、+20%(30kV)、-10%(22.5kV)とされ、短時間に限り−20%(20kV)まで許容することとされた。

イ.電気回路一般

  0系新幹線電車の電気回路は、運転用となる主回路、空調等の機器用の補助回路、各機器の運転をコントロールする神経となる制御回路から構成されており、M+M'の2両1ユニットが基本単位である。
  パンタグラフから取り入れられた交流25,000Vの電気は床下へ導かれ、最初に高圧機器箱に入るが、ここには避雷器と空気シャ断機(後に真空シャ断器(VCB)に変更)がある。このVCBは交流25,000V回路の切入を行なうもので、主回路その他に事故があった場合は自動的に切れるが、運転士の操作によっても切入できる。電気はVCBから次に主変圧器の一次側へ入り、2次側の動力用電源、3次側の補助機器用等の電源に変換される。

  M+M'1ユニットの主な電気回路系統と主要な機器の概要は以下のとおりである。
パンタグラフ   電車線から交流25kVの電流を集電する装置で、集電電流は高圧ケーブルによって床下の高圧機器箱へ導かれる。パンタグラフの周辺にあるものは支持ガイシ(4本のうち、2本は空気碍菅を兼ねている)、保護接地スイッチとケーブルヘッドだけである。
  在来線に比べて電車線の高さの変動が小さいため、小形、軽量化が可能で、高速時における良好な集電を確保するため種々研究を重ねた結果、架線追随性に優れ、空気流の影響による押上力変化のない小形で集電性能に優れたバネ上昇空気下降式のPS200形パンタグラフが開発された。標準押上げ力は5.5kgである。
そのおもな特長は次のとおりである。
(1)架線の標準高さを5mとし、上下の変動幅が在来に比べて標準高さの+300mm、−200mmと小さいので、わく組を小さくして小形軽量となった。このため運動質量が小さくなり、共振現象により離線を生ずる限界速度と無離線速度が高くなり、高速時の集電が良好になった。
(2)主ばねと並列に下げに対して片効きのオイルダンパを設け、上下振動を抑制した。
(3)パンタグラフの台わく全体を流線形のカバーに収め、風抵抗を少なくした。
保護設置スイッチ 真空しゃ断器による主回路しゃ断が不可能な場合、架線異常を発見し強制接地によって変電所しゃ断器を開放させる場合に扱う。高圧機器箱内を点検する際にはスイッチを投入しておいて断路器の誤取扱い時のパンタの上昇による感電事故を防止する。
高圧機器箱  密閉構造で気流の乱れ、塩じんによる汚損等を防止するため床下に付いており、真空しゃ断器、避雷器が納められている。感電防止のために保護設置スイッチと連動の鎖錠装置が設けられている。
避雷器 落雷などの異常高圧電流から機器を保護する装置で、異常高圧電流は大地へ放電される。
真空しゃ断器 特高圧回路に異常な電流が流れたときに車両全体の機器を保護するために回路を自動しゃ断する装置である。同時に、通常は交流又は無電圧区間で主回路の開閉を行う一種の開閉器でもある。
主変圧器 25kVの電力を主電動機や機器等の電源に利用するために電圧の変換を行なうもので、在来線の交直流電車と同様床下に取り付けられ、高さの低い特殊な構造のものであり、難燃性の絶遠油を使った外鉄形送油風冷式である。
 2次巻線は固定巻線と速度制御用のタップ(接点)がついタップ付巻線からなっている。タップを和動・差動に接続するとともに、限流リアクトルを使用して多くの制御ステップを得るようにしている。
 3次巻線は補助機器用で、単相交流220Vを取り出すようになっている。
 電圧は25KV/2,261V/232V、連続定格容量は1,650/1,500/150KVAで60Hz用である。
タップ切替器 主変圧器の2次巻線から取り出す電力はタップ切替えによって25段階の電圧が得られるようになっている。このタップを切替える制御器を低圧タップ切換機器といい、電動カム軸式で無接点制御装置によって操作電動機を駆動する。限流リアクトルと組合わせて力行制御器といい、新幹線の速度制御に応じてタップを自由に選択することができる。
 これによって、主抵抗器を使用した抵抗+直並列制御では抵抗器熱容量に抑えられて主抵抗器の全部抜けた最終段のみが常時運転位置となり任意の速度での均衡運転ができなかったが、低圧タップ切換による電圧制御は運転台の主幹制御器のどの位置でも長時間運転が可能で、大変運転操作がし易くなった。
交流フィルタ 高圧の主回路内に発生する高周波電流は通信線などに雑音などの誘導障害を引き起こすので、この高調波成分をバイパスさせて誘導障害を防止するためと主整流装置の異常電圧吸収装置(サージアブソーバ)としての保護機器の役目も果たす。
主整流装置 主変圧器2次側に誘起された交流電力を直流電力に変換するもので、単相ブリッジ結線全波整流回路とした強制風冷式シリコン整流素子が使用されており、1組の整流器で1ユニット2両分8個の主電動機の直流電源になる。
 整流器容電1,627KW、直流電圧1,600Vであるが、直流電流については12両編成中の1ユニット(2両)を開放して平坦区間を走行する場合の連続電流980Aと、こう配で起動し、そのこう配を通過する時間を考えた場合の電流1,500A、8分間の両方を定めている。
主平滑リアクトル 主整粒装置で単相全波整流された主回路電流の脈流をなるべく平滑にしてより直流に近づけるために波形を改良させる。脈流率が大きくなると主電動機の温度上昇が大きくなり整流もむずかしくなるが、逆に小さくすると誘導障害が多くなる。
断流器 力行、電気ブレーキ回路の構成及びしゃ断を行うもので、8個の単位スイッチが1つの断流器箱に納められている。主電動機を開放したい時には制御回路開放器で主回路を開放することができる。
主制御器 車両機器のいわば頭脳に相当する機器で、運転士やATCからの指令にもとづいて、力行、ブレーキ、前進、後進の回路切換え、電気ブレーキ時の抵抗制御を行なうももので、1ユニット2両分を1台の主制御器で各電動車別に制御する方式とし、1両故障の場合でも配電盤の制御回路開放器の切り換えで健全な車両側は正常に作用するようになっている。方式は2電動機操作カム軸式で、主回路の切り換えとブレーキ抵抗制御は別個のカム軸で行っている。
 主回路のつなぎ換えを行なうPB転換器、電気ブレーキ時の抵抗を加減するブレーキ制御器、ブレーキパターン電圧と主回路電流を比較して各速度に応じた限流値を選択する限流値制御装置などで構成されている。
主電動機 台車装荷の脈流直巻補極付直流電動機で、可とう歯車継手を介して駆動装置と連結されて車輪に動力を伝達する。高速軽量の設計で、固定子巻線はエポキシ樹脂で固め、さらに、コイルと鉄心の間もエポキシ樹脂で完全に固着し、放熱をよくしており、従来の方式に比べて約2倍の放熱効果をあげている。
 また脈流による悪影響を軽減するため、平滑リアクトルを用いているが、通信線に対する誘導障害を少なくし、かつ平滑リアクトルを軽量にするため、主電動機は50%の高脈流率で使用するように設計されている。このため主極磁束の変動に基づく整流障害と主極コイルの温度上昇を改善するため、主極界磁を純抵抗で10%分路して交流分を分流させ、さらに電車線のデッドセクション通過時の電力中断による過渡整流改善のため、補極磁路を積層し、整流磁束の追随性をよくしている。
 1両分4個の電動機を永久直列接続とし、力行時には1ユニット分2回路を並列にしてタップ制御器で電圧制御が行なわれる。
 電気ブレーキ時には発電機として作用させ、ブレーキ弁ハンドルの角度に応じた電気ブレーキ指令の交流電圧(ブレーキパタン)を全車に引き通しているが、1両分毎に発電ブレーキ回路を構成するようになっている。
 MT200Bの連続定格は185kW(415V-490A−2,200rpm)、効率90.1、脈流率50%、質量875kgとなっている。
 容量的には12両編成で故障によって1ユニット2両分の主電動機を開放しても(ユニットカット)東京〜大阪間を所定時分で運転でき、かつ温度上昇的にも問題ないように設計されている。
主抵抗器 主電動機で発電した電流を熱に変えて消費する電気ブレーキに主に利用するもので、放熱効果の高い波形抵抗体を多数直列につないでいる。
 M車用とM'車用の2台あり、それぞれ主電動機4個分の発電電流が送り込まれる。熱を発生するので送風機によって冷却されており、概ね20分に1度使用できる容量を有しているが冷却用送風機が停止した場合は発電ブレーキ回路は開放される。
電動空気圧縮機 空気ブレーキ、空気ばね、パンタグラフ等各種機器の操作に用いる圧力空気を作るもので、2段圧縮対抗往復形4シリンダのシリンダ配置として振動を軽減している。容積は1000リットル/分、吐出圧力は9kg/cm2(最高)で、必要に応じて減圧弁で圧力を下げて利用する。
 引き通しの元ダメ空気管圧力が8kg/cm2以下になると運転するようにしているが、ある1台が最初に運転を始めると圧力が上がって他の圧縮機は運転しないため焼損の恐れがあり、同期回路を構成して全編成のものが運転を開始するようになっている。9kg/cm2に達すると停止する。
ブレーキ制御装置 各種空気だめ、空気及び電磁弁、コック、配管等のブレーキ用の全ての部品がユニットにまとめられたもので、M用とM'用とがある。主な機能としては次のようなものがある。
 ・電磁直通制御器の電気指令による直通管制御
 ・直通管圧力によるまたは緊急、非常ブレーキ指令によるブレーキシリンダ圧力制御
 ・空気圧縮機制御、制御空気だめ圧力制御、圧力空気源の貯蔵及びドレン除去
予備励磁装置 ブレーキ指令が出たときにすぐに電気ブレーキ電流が立ち上がるように、主電動機界磁を外部電源(主変圧器3次電源)で予備励磁を行い、主電動機電流が完全に立ち上がった後に予備励磁回路を開放するためのもの。
電動発電機  電動機と発電機が一体となったもので、電動機で発電機を運転し車両に搭載されている各種機器に電力を供給する。セクション通過時でも停電しないため無停電電源となる。
 空調等のサービス機器や機器冷却用等の補助回転機の電動機には、それまでの交流電気車では一般に3相誘動電動機を使用していたが、新幹線では補助回転機の数が多く、これらをすぺて3相誘導電動機とするには単相を3相に変える電動発電機が必要になり、この重量が大きいため軽量化の趣旨に反した。従って、試作車等での試験結果を生かして、どうしても安定電源を要する客室けい光燈と制御電源用整流装置だけを電動発電機から給電することとし、主変圧器に3次巻線をつくって他はこれを電源とする単相誘導電動機とした。
自動調整装置 電動発電機の負荷電流および負荷力率の変化に対して出力電圧を一定に保つためのもの。
空気調和装置
 車内の冷暖房はヒートボンプ式の空気調和装置を用い、電気暖房器は用いていない。空気調和装置はユニット式で1両に約10台を屋根に取り付けている。1台の能力は、冷房4,500kcal/h、暖房2,500kcal/hで、室温は客室2箇所に設けた自動温度調節器によって制御されるが、手動で制御することも可能になっている。
インバータ バッテリのつながった直流回路を電源として安定した交流100Vに変換し、架線停電の場合でも列車を安全に制御するのに必要なATC装置などの機器に電気を供給する。


ウ.主回路システム

  主回路は、パンタグラフから単相交流25,000Vを取り入れ、主変圧器で電圧を下げ、シリコン整流器で直流に変換、直流電動機を駆動し、ブレーキ時には電動機を発電機として使用して運動エネルギーを電気エネルギーに変換、更にそれを主抵抗器で熱エネルギーに変換、放熱してブレーキ力を得るというもので、基本は当時の交流電気車と同じで、回路は右の図のようになっている。
 速度制御は、在来線電車のような抵抗+直並列制御ではなく、主変圧器の2次側を固定巻線と多段タップ付き巻線で構成し、タップを切り換えることによって主電動機に流れる電気の電圧を制御する低圧タップ切換式となっている。
 その動作は極性転換開閉器K1、K2で巻線を和または差動に切換え、各開閉器の開閉を組み合わせることによって少ないタップで多数の制御ステップ(1段の348Vから25段の2,435Vまで)を得るようにしており、加速力の変化が小さく、衝撃の少ないスムーズな加速ができる。
  主抵抗器を使用した抵抗制御では抵抗器熱容量に抑えられて主抵抗器の全部抜けた最終段のみが常時運転位置となり、任意の速度での均衡運転ができなかったが、低圧タップ切換による電圧制御は運転台の主幹制御器のどの位置でも長時間運転が可能で、運転操作がし易い。
  主電動機は4個直列に接続されたもの2組が並列になっており、2両ユニット8個の主電動機が1組の電動カム軸式の制御装置で制御される。
  出力は185kWであり、12両編成で故障によって1ユニット2両分の主電動機を開放しても(ユニットカット)東京〜大阪間を所定時分で運転でき、かつ温度上昇的にも問題ないように設計されている。

エ.補助回路システム
  空気調和装置や車両搭載の各機器、照明、制御装置等に電気を供給する補助回路システムは、主変圧器3次巻線(端子電圧232V、容量150KVA)から供給するようにしており、各負荷への電源供給は右図のような構成になっている。
  空調機やファン等の容量の大きな交流電源機器等の駆動にはそれまで3相誘導電動機を利用することが多かったが、変圧器3次の単相電源を3相に変換する必要があったため、0系ではそれを極力なくして車内の交流負荷類はできるだけ単相とし、主変圧器から直接給電される単相220Vで駆動するように単相誘導電動機を多く用いるようにした。この電源は、セクション通過時等に瞬間停電が発生するため、それでも運転可能なものでなければならない。
 安定した電源を要するものは2相3線式交流発電を行なう20KVAの電動発電機の出力を用いており、各ユニットに1台ずつ電動発動機を設けている。この単相交流60Hz、100Vは整流器によって直流100Vに変換し、制御回路などの電源に用いるとともに、蓄電池を浮動充電する。無停電電源はこの蓄電池と同じ系統の直流100Vによって駆動する。ATC装置等高品質な交流電源が必要な機器へはこの直流をインバータによって単相交流60Hz±3Hz 100V±5V電源に変換して供給している。この電源は蓄電池でバックアップされていることになり、事故による停電が発生しても一定時間稼動可能である。

(5) 速度制御

ア.0系新幹線の速度制御

  0系新幹線の速度制御は既に説明したように低圧タップ制御であるが、加速時には具体的には次のように速度制御される。
 
運転士が主幹制御器(マスコン)を操作して、力行のノッチに投入する。
すると、電動機に電圧がかかり電流が流れてトルクが発生、電動機が回転を開始し、速度が向上してゆく。
それに伴い電動機の逆起電力も増加するため端子電圧が低下し、主回路電流が減少するため、そのままではそれ以上加速できなくなる。
そのため、主回路電流が設定した値(限流値という)まで減少すると、主制御装置の限流値制御装置が動作してカム電動機を回転させ、タップ切替器が進段し電動機電圧を上昇させる。
電圧の上昇に伴い主回路電流が増加し、引張力が増大するので速度が向上する。
という動作を繰り返す。

  このように限流値制御装置により主電動機回路電流をほぼ一定に保ちながら、予め定められた順序に従って所定のステップまで自動的に進段する。下左図の力行ノッチ曲線は、その様子を示している。
  1〜5ステップにあるときは主回路電流は限流値以下で、3ノッチ以上に投入した場合にはタップ切替器はこのステップを通過して6ステップで主回路電流は限流値以上になるので、このノッチを捨てノッチと呼ばれるが、起動時の衝撃を緩和している。
  全部で25段のステップがあり、電流の変化即ちけん引力の変化を少なくして円滑で衝撃の少ない加速ができるようにしている。
 

     実際の列車の加速力は引張力から走行抵抗を引いたもので、速度に応じて下図のように変化する。

イ、ブレーキ制御

 新幹線のブレーキ制御は自動列車制御装置(ATC)によって、信号の指示する速度と電車の走行速度を常に比較しながら、電車速度を信号の指示速度以下に保つように自動的に行なわれるが、運転士がブレーキ弁ハンドルを操作することによって手動制御もできる。自動と手動のブレーキ指令が同時に出た場合は、ブレーキ力の大きい方の指令でブレーキが作用するようになっている。
  ブレーキはブレーキディスクやライニングの磨耗防止のために電気ブレーキ(発電ブレーキ)が優先的に動作するようになっているが、ブレーキ指令から2秒間経過しても電気ブレーキが立ち上がらない時は故障(電制フェール)と判断し、その車の電気ブレーキ回路を切り、ハンドル角に応じたブレーキ力の空気ブレーキにスムーズに切りかわる。ハンドル角に応じて得られるブレーキ力は電気も空気も同じである。
  電気ブレーキ指令は、ブレーキ弁ハンドルの角度に応じた交流電圧(ブレーキパタン)として全車に引通され、この電圧によって電気ブレーキ力を加減する。
  ブレーキ指令によって直ぐに電気ブレーキ電流が立ち上がるように、主電動機界磁を外部電源(主変圧器3次電源)で予備励磁を行う。主電動機電流が立ち上がると直通ブレーキ(空気ブレーキ)を締め切り、完全に電流が立ち上がった後に予備励磁回路は開放される。
  また、ブレーキ指令が出てから1ステップから順に抵抗短絡を行うのでは有効なブレーキ力が作用するまで時間がかかるので、自動列車制御装置の速度継電器からの速度情報に応じてブレーキ抵抗用カム軸を回転させて、力行・だ行中でも絶えずノッチ選択を行なってブレーキ開始と同時に所定の電気ブレーキ力が発生するようにしたブレーキノッチ自動選択機構(スポッティング)方式を採用している。
  高速度でブレーキを動作させた場合は、ブレーキ力発生→速度低下(発生電圧低下)→電流減少→限流値まで減少→限流継電器動作→カム電動機回転→ブレーキ制御器進段(主抵抗器短絡)→主回路電流増加(限流継電器解放)→ブレーキ力増大→速度低下→(以下繰り返し)のようにカム接触器は順次抵抗器を短絡する。
  力行の時は限流値は一定に保たれるが、ブレーキの場合は高速での粘着係数が湿潤時には計画式13.6/(V+85)というように速度に反比例して減少するため、高速で過大なブレーキを働かすと滑走が発生しやすく、下の表のように速度に応じて段階的に減速度の値を変えており、高速では小さく低速では大きくという4段階になっている。下の表は、車両側の設定減速度といい、実際の列車としての減速度(運転計画に使用する場合は、計画減速度)はこれに走行抵抗等の抵抗を加えたものになる。

速度V(km/h)常用ブレーキ減速度(km/h/s)非常ブレーキ減速度(km/h/s)
160以上1.52.1
110〜160 1.92.8
70〜1102.4(2.6)3.5(3.8)
70以下2.6(2.6)3.8(3.8)

空気ブレーキのみの場合、110km/h以下は( )内の値となる。


  速度が低下して50km/h程度以下になるとブレーキ電流をしゃ断し、同時に直通ブレーキが作用してブレーキ力は空気ブレーキのみとなる。図の発電ブレーキノッチ曲線は21次車までのもので、22次車以降では30km/hまで電気ブレーキを作用するようにししたためノッチが20まで増えておりこの図と少し異なるが原理は同じである。
  非常ブレーキの減速度は常用ブレーキの43%増で電気ブレーキに増分の空気ブレーキが付加されることになるが、電気ブレーキが故障したときは自動的に空気ブレーキが働き、143%負担可能である。
  このようにブレーキについては210m/hの高速運転に対して慎重な考慮が払われている。

ウ.空気ブレーキ

  新幹線のブレーキは電気ブレーキが優先で、空気ブレーキは一般に乗務員が駅停止時等に使うのが主体だが、電気ブレーキは機器故障等によって使えなくなる可能性があるため、空気ブレーキのみによっても高速からでも安全に停止できるようになっている。更に、ATCによる自動制御も行なわれるため、これとの整合性も取っており、かなり複雑である。
  長大な編成の新幹線では運転台の制御用空気圧をそのまま各車に伝えるのでは時間がかかって高速運転に向かないため、これを電気指令に変換して各車に伝達してブレーキ用の直通管圧力を制御するSEA発電ブレーキ併用電磁直通空気ブレーキを採用している。
  空気ブレーキに関係する主な機器と空気配管は右図のとおりで、概略は下表のとおりである。
  列車分離などの事故対策としては、在来車両のような引通しブレーキ管の減圧によって動作する自動ブレーキは設けていない。その代わりに、常時加圧の電気引通し線を用いて異常時には各車両の緊急ブレーキ電磁弁を消磁することによって力行回路を開放し、各車一斉に緊急ブレーキが作用するようにしている。
  従って、空気管の引き通しはMR管、SAP管の2本であり、ブレーキ(BP)管の引き通しはない。200系以降は電気指令式の空気ブレーキになったので、直通管の引き通しもなく、MR管のみの引き通しとなっている。

電動空気圧縮機で作られた一定の圧縮空気(8〜9kg/cm2)は元空気ダメに蓄えられ、そこから元空気ダメ管(MR)を通じて各車に引き通されている。
運転士のブレーキ弁操作による空気ブレーキ指令(弁の回転角度)またはATC指令によって自動的に動作する電磁弁(ATCV)の指令は制御用空気の圧力(CP)に変換され、更にB175電磁直通制御器によって電気指令に変換されて各車に引通される。その引通し回路によって各車のブレーキ制御装置のブレーキおよび緩め電磁弁を消励磁して直通管(SAP)圧力を制御する。
各車のこの直通管の空気圧力は電磁直通制御器にフィードバックされるので、直通管圧力は常に指令空気圧力CPに見合った圧力で制御される。
ブレーキ制御装置の中継弁によって直通管圧力とほぼ等しいブレーキ用の圧力空気が供給空気ダメから増圧シリンダに送られ、油圧に変換されてブレーキシリンダに作用し、制輪子をブレーキディスクに押し付けてブレーキ力を発生させる。

 緊急ブレーキは、列車分離の場合、緊急ブレーキスイッチを扱った場合、ブレーキ弁ハンドルを取り外し位置に移した場合、SAP圧力が立ち上がらない場合(電気ブレーキが立ち上がる場合は別)、ATC開放または入換え時架線停電、ATC故障などに動作する。この場合、ATC制御を受けることが出来ないため、緊急用圧力調整弁からJ14中継弁に作用する空気圧は列車速度110〜160km/h時の非常ブレーキ減速度(2.8km/h/s)にみあったSAP圧力に相当するように調整される。従って、減速度は各速度で一定である。
  電車線が停電した場合または列車防護のために強制的に電車線を停電させた場合はATCの×信号が現示されてATCによる非常ブレーキが作用し、ATCを使用していない列車でも0.7秒間以上無電圧となると緊急ブレーキが動作する。

各機器等の作用は次表のとおりである。
ブレーキ弁 運転席に設けら、ハンドルを回すことによって各種ブレーキ等の設定を行なうもので、電気接点の開閉を行なう電気接触部、角度に応じて空気ブレーキの制御圧力(CP圧力)をつくるセルフラップラップ機構、変圧器2次側に多数のタップを設けて角度に応じた電気ブレーキのパターン電圧を発生させて電気ブレーキ回路にブレーキ指令を出す部分が縦に積み重ねられてカム軸が中心を貫いている。
約55度でブレーキが立ち上がり、角度に比例してブレーキ力が増加、110度で常用最大となる。
ATCV ATCブレーキの時に動作し、ATCブレーキ指令によって消磁されると、MRからの圧力空気を送りだす。
L1圧力調整弁 MRからの圧力空気を5.5kg/cm2の圧力空気に変換して複式逆止弁に送る。
複式逆止弁 左右いずれか圧力の高い側を出力する。L1圧力調整弁からとブレーキ弁からの圧力空気とを比較し、大きい方が制御空気圧となる。
制御用空気 ブレーキ力を制御するための圧力空気で、この圧力に比例したブレーキ力が各車に発生する。
B175電磁直通制御器 長大な編成の新幹線では制御用空気CPをそのまま各車に伝えるのでは時間がかかって高速運転に向かないため、この制御空気圧を電気指令に変換して各車に伝達し、ブレーキ用の直通管圧力を制御する。運転席に設けられている。
 動作は次のようになっている。
 ブレーキ弁が運転位置にあり、ブレーキ指令が出ていない時はCP圧力が生じないのでB175の膜板室CP側は無圧となり、戻しバネの作用棒は右へ動きR接点を閉じるのでユルメ電磁弁(RV)によって直通管圧力は大気に開放される。
 ブレーキ指令が出ると、CP側膜板室に生じるCP圧力によって戻しパネは圧縮されて膜板は作用棒を左へ動かすため、R接点は開きA接点を閉じる。この時、110kn/h以下では速度電磁弁110SV、160SVは消磁しているので、大、中、小膜板室内にCP圧力が流入するため、作用棒に作用する膜板は大膜板となる。110〜160km/h間でブレーキ指令が出た場合は、110SVは励磁され大膜板に作用しているCP圧力は排気され、小、中膜板のみCP圧力が作用するので、作用棒に働く膜板は中膜板となる。同じことが160km/h以上でもいえ、このときの作用膜は小膜板となる。
 このように、A接点が閉じるとブレーキ用電磁弁(AV)が励磁され、直通管圧力(SAP圧力)が作られるが、ハンドル角に見合ったSAP圧力を作ることができない。そのため、大膜板にCP以外にSAP圧を導入させて常にSAP圧力を監視し、SAP圧力が上昇してCPが作用している膜板面積で作る力と平衡したとき、作用棒は緩衝バネ力に押し戻されてA接点は開きブレーキ電磁弁を消磁、+フィンガーはRとA接点の中間に止り、供給空気ダメから直通管への供給をとめて、ブレーキは重り位置となる。CP圧力が下がればSAP圧力に押されて作用棒は右に動き、+フィンガーはR接点に接し、再びユルメ電磁弁を励磁してSAP圧力は排気され、ユルメ作用を行なう。
このようにしておくと、B175と150、151の引通し線によって各車のAV、RVを総括制御することができ、SAP圧力は各車ごとにMRより作られ、各車ごとに大気へ逃がすことができるので、短時間でブレーキ作用および緩解を行なうことができる。
 AVを励磁するときは必ずRVを消磁させSAPの排気孔を閉じ、RVを励磁するときは必ずAVを消磁してからになるようにしている。
 このようにB175の総括制御(電気的)がBVハンドルの支配を受けて行なわれるため、それぞれの運転台にBVとB175は一組として搭載されており、また、運転位置の運転台からのみ制御可能なようになっている。
 故障のときは二道締切弁によりブレーキ弁から直接SAPに圧力空気を送る。
速度電磁弁(SV) ATCの速度情報から110kn/h、160km/hになるとそれぞれ励磁され、これによってブレーキ力を速度によって調整する。
プレーキ用電磁弁(AV) 電磁直通制御器からの電気指令によって弁を開き、MRから直通管に空気を供給する。直通管圧力が制御空気圧と一致すると閉じる。
ユルメ電磁弁(RV) 電磁直通制御器からの電気指令によって弁を開き、直通管の空気を開放する。
LOV締切電磁弁 電気ブレーキが作用している時に空気ブレーキが同時に作用しないようにこの弁により直通管からディスクブレーキの空気シリンダへの空気を絶つ
J14中継弁  ブレーキ指令によって作られたSAP圧力とほぼ等しい圧力の空気を容量の大きなMRより得てBCに与える。非常ブレーキ時にはブレーキ弁ハンドルを非常位置に回転させると非常電磁弁が消磁し、SAP圧力が小膜板の下部室に入り、締切電磁弁から入るSAP圧力に付加されて+43%の圧力空気が得られる。
締切電磁弁 電気ブレーキ作用中励磁してJ14中継弁への直通管圧力をしゃ断するとともに、大膜板室の直通管圧力を開放する。
元空気ダメ 電動空気圧縮機から送り出された圧力空気を冷却貯蔵する。安全弁、自動ドレン弁が付いている。1、2がある。
供給空気ダメ 第2元ダメからチリコシ、逆止弁を経て配管され、ブレーキ弁や制御部へ圧力空気を供給する。
ブレーキ制御装置 各種空気だめ、空気及び電磁弁、コック、配管等のブレーキ用の全ての部品がユニットにまとめられたもので、M用とM'用とがある。
  主な機能としては次のようなものがある。
  ・ 電磁直通制御器の電気指令による直通管制御
  ・ 直通管圧力によるまたは緊急、非常ブレーキ指令によるブレーキシリンダ圧力制御
  ・ 空気圧縮機制御、制御空気だめ圧力制御、圧力空気源の貯蔵及びドレン除去
電動空気圧縮機 空気ブレーキ、空気ばね、パンタグラフ等各種機器の操作に用いる圧力空気を作るもので、2段圧縮対抗往復形4シリンダのシリンダ配置として振動を軽減している。容積は1000リットル/分、吐出圧力は9kg/cm2(最高)で、必要に応じて減圧弁で圧力を下げて利用する。引き通しの元ダメ空気管圧力が8kg/cm2以下になると運転するようにしているが、ある1台が運転を始めると圧力が上がって他の圧縮機は運転しないため焼損の恐れがあり、同期回路を構成して全編成のものが運転を開始するようになっている。9kg/cm2に達すると停止する。
基礎ブレーキ装置 油圧シリンダーで発生した力をブレーキテコを介して制輪子(ライニング)に伝え、車輪両側面についているディスクに押し付けてブレーキ力を得る。機械式ブレーキのこと。

(6) ATC

  200km/hを超える速度で走行し、ブレーキ距離が約3kmにもなる新幹線では、在来線のように地上に信号機を設けて運転士が信号を確認しながら手動で速度制御する方法では安全が確保できないばかりかかえって危険でもあるため、信号を運転台に表示する車内信号方式と自動列車制御装置(Automatic Train Control)を採用した。

  力行制御は運転士が行なうが、ブレーキ制御はこのATCによって自動的に行なわれるもので、これに基づく列車運転保安システムは新幹線の安全運転を支える最も重要な技術の一つである。
  新幹線のATC装置は次のような特徴を持っている。
(1)車内信号現示 先行列車との間隔および線路の条件などに応じて列車の許容運転速度を示す信号を連続して運転台に現示する。 速度計のイメージ
(2) 自動減速制御 信号の指示する速度と列車速度とを常に比較し、列車速度が信号の指示する速度以上になれば自動的にブレーキが動作して減速させ、所定の速度以下になるとブレーキは緩解する。
(3) 駅停車時等の減速制御 分岐器への接近、停車場への進入等に応じ、自動的に減速、停止制御を行なう。

ア.ATC信号の速度段階

  ATC信号の速度段階は下の表のようになっており、信号現示と制限速度の考え方は記載のとおりである。なお、昭和61年11月のダイヤ改正で最高速度が220km/hに向上され、210→220、160→170、110→120にそれぞれ改められたが、従前の数字を使っている。
  信号の表示の順番は決められており、先行列車がいる場合は、たとえば、210→160→30→停止信号のように順に表示する。また、現示区間は下位信号に変わった場合にその閉そく区間内で所定の速度まで減速できるような長さが必要である。
 また、たとえば110〜160km/hで走行中に110信号を受けた場合、ATCによって常用ブレーキが作用してその閉そく区間内で110km/h以下に減速されるが、万一210km/hから減速中で160km/h以上で走行中に110信号を受けた場合は2段飛びとなるため非常ブレーキが動作するようになっている。

信号現示制限速度(km/h) 考え方適用範囲
210210  列車の計画最高速度は200km/hであるが、乗務員の速度調整、機器の誤差等を考慮して最高制限速度を210km/hとして210信号を設けた。 旅客列車最高速度
160160  最高速度の中間の速度段として列車間隔を詰めるために定めた。210km/hから160km/hまで減速に要する距離と160km/hから停止するまでの距離がほぼ等しいため、制御区間の長さを定めるのに無駄がない速度である。 速度てい減、急曲線速度制限、徐行運転
110110  70信号が徐行や分岐器通過速度の基本速度だが、東京付近の急曲線区間を一律70km/h以下とすると運転時間に与える影響が 大きいため、最上位を110としてそれ以下の速度制限個所は乗務員のハンドル操作に任せることとした。その後、列車密度の増に伴い速度てい減用にも多く使われるようになった。 急曲線速度制限、徐行運転、速度てい減
7070 分岐器を分岐側に通過する場合の制限速度で、逆に分岐器はこの速度で通過できるような番数のものが使われる。また、徐行運転用に使われる速度でもある。 分岐器曲線速度制限、徐行運転
3030(確認扱い要)  注意運転しうる最低の制限速度として定めた。最終速度段階
01 一旦停止後30  停止信号である。上位の信号に変わらなければ出発操作をしても列車を運転することが出来ないが、閉そく進路では停止後30km/h以下の速度で運転ができる。 無閉そく区間の予告(手前約150m)
02無閉そく運転区間
030絶対停止過走防護(車両接触限界手前約50m)

  下の図は、駅中間で先行列車に接近した時と停車場に停車するまでのATC信号現示と列車速度の変化を示したもので、1つの列車しか入れないATC閉そく進路長は約3kmで、その進路長毎に運転台に指示速度が表示される。 特に制限がなければ210km/hの信号が連続して表示される。
  なお、この進路区間長の平均は、山陽では約2.5km、東北・上越新幹線では約1.2kmとなっており、停車場内は更に細分化され、信号限示のラップが行なわれている。
  また、30信号区間を30km/h以下で長距離走ることは時間の損失が大きいので、博多開業時からは中間にB点という下位信号現示点を設け、210-160−110−30−0の5段階減速方式になった。


[駅中間]
  駅中間で210信号を受け最高速度で運転している列車が、何らかの原因で遅れまたは停車している先行列車に接近して160信号区間に進入すると、自動的にブレーキが作用し(ATCブレーキ)減速するが、速度が160km/h以下になるとブレーキは自動的に緩解し、乗務員の運転操作に任される。さらに先行列車に接近すると信号現示は160信号から30信号に変わるので再びブレーキが作用して速度は低下する。この場合、速度が30km/h以下になってもブレーキは緩解しないので、運転士が確認扱をしてブレーキを緩解する。
  確認扱い後、次の閉塞に進入するまで停止信号を受けないため、ブレーキ距離分先行列車のいる区間に侵入することになり、問題があるため、境界から150m手前にP点という場所を設け、そこを通過するとATC車上装置が30信号から 停止信号に切り替わりブレーキ指令が出て、境界の約50m手前に停車するようになっている。停止後確認扱いをすれば運転は可能である。
  P点用地上子(コイル)は各ATC進路毎に設けられているが、30信号区間以外では車上装置に影響を与えない。なお、P点を通過してそれまでの30信号が車上で0に切り換った「0」と、現に列車がいるATC進路区間の列車から後方の 「0」(信号電流なしの状態)とは同じ停止指令であってもその性格が全く違うので、これを区別するため、前者を「01」、後者を「02」と呼んでいる。

[駅前後]
  駅に進入するときも駅中間で停車する場合とほぼ同様であるが、分岐器をわたる場合、その分岐側の制限速度は70km/hとなっているから、信号現示は160信号から70信号に変わり、70km/h以下に減速する。
  乗降場に進入しB点で30信号に変わり、ブレーキが自動的に作用して更に減速する。30km/h以下になると駅中間と同様に運転士の確認扱によりブレーキは緩解する。この後、運転士はブレーキを扱って所定の停車位置に合わせて停止させる。
  駅に停車している列車もしくは停車すべき列車が、分岐器や信号など前方進路未構成のまま誤って出発するか、過走した場合には、前方の分岐器を割出して脱線したり、たまたまその時に通過列車があると大惨事に結びつくので、 この対策として所定停止位置の前方にレールに添わせて電線を張り、前方進路が開通していないときには、特別の電波を出して、万一この上に列車がさしかかると車上装置により非常ブレーキ指令がでるようになっている。 この停止指令は,絶対停止「03」と呼んで、「01」、「02」と区別されているが、これら3つの停止信号は、車内信号ではいずれも「0」として表示される。
  B点は、当初は停車場に進入する際の70信号から30信号への現示変化点として使用したが、前に述べたように続行列車の追い込み用として進路区間の中に置かれて下位の信号に変化させる個所として使用するようになった。
  また、A点は、ATC進路内において列車が制限箇所を通過しても、次のATC進路まで速度を上げることができないのでは運転時分の損失が大きくなるので,同一ATC進路内であっても必要により上位信号を現示できるように山陽区間から設けられたもので、停車列車が駅を出発して最後尾が分岐器を通過し終わったら70信号が210信号に変わるのもA点である。
  このように、ATC進路の取り方は開業後に運転間隔の短縮等のため列車本数の増に合わせて改良されており、停車場におけるATC場内進路と出発進路の概要は次の表のとおり変化している。

 当初

 1Rから70信号になり、2Rが停止の時はその外方のB点から、進行の時はホームのB点で30信号になる。
 列車が進出する時は、53分岐器を含む軌道回路を列車の後部が抜けるまで70信号を継続現示して制限速度を超過しないようにしており、抜けると210信号を限示する。
 山陽新幹線開業に伴う「ひかり」増発のため、停車列車の運転時分短縮と通過列車と停車列車間の最少運転時分の短縮を目的として昭和46年度に改良された。

 1.1R内の軌道回路境界をB2点に変更し、2R進行のときこの点まで160信号とする。
 2.7R内の軌道回路をB、B8Rに変更し、B8Rに先行列車が進入したとき停車列車が出発可能とし、B点までは30信号を受けないようにする。
 
 1.2R進行のとき1R内のB1まで110信号を現示できるようにする。B1点から分岐器までの距離は列車の速度が110km/hから70km/hに低下するための距離以上とする。
 2.出発時は上とほぼ同じであるが、一部の区間に110km/h信号を現示する。
 160信号の位置を約1.5km駅側に近づけ、更に、2Rの位置により停車列車到着後通過列車が通過するまでの時間を短縮した。分岐器からの距離が列車長以上のA点を設け、その点を越えると直ちに上位の信号に変えるようにした。
 1.1Rを51号分岐器を70km/hで通過できる位置にとる。
 2.2Rをハ形の分岐器の外方に設け、2Rを基準点として160km/hから停止するまでのブレーキ距離で下1、下2、下3の位置をとる。
 3.1Rを基準点として160km/hから停止するまでのブレーキ距離で下2のB、下3のBの位置をとる。
 4.進出方のA、B、下22、下21は、上り場内連絡の閉そく境界またはB点の位置に合わせて設ける。

イ.軌道回路

  ATC装置は、列車の有無を検知し、そのデータを基に列車間隔、線路条件や前方進路の状態を連動装置を通して知り、 その結果によって必要な許容速度信号を列車へ伝達する地上装置とそれらの信号を解読して車両の速度制御を行なう車上装置とから構成される。
 地上の主要機器は軌道回路と送受信器であり、在来線と同じくATC信号電流をレールに流す軌道回路方式が用いられる。多くの場合2〜3の軌道回路によって1つのATC進路区間が構成されている。A点、B点はともに軌道回路(この場合は短小軌道回路)の境界を利用し、同一ATC進路区間であっても、 軌道回路が異なると信号現示が変わるようにしたものであるが、これはATC進路の境界と違って特殊な場合に信号現示を変化させるだけで、列車を停止させる境界とはしていない。軌道回路はこのような信号伝送手段としての役目のほかに、信号保安装置の基本となる列車検知にも用いている。なお、03信号は添線によって与えられ、P点は地上子によって車上で信号を読みかえるものであって、軌道回路に流される信号ではない。
  軌道回路には有絶縁軌道回路と無絶縁軌道回路とがあり、右上の図は有絶縁軌道回路の構成概念で、1種類の送信器、受信器によって列車の検知とATC信号の伝送が同時に行なわれている。
  隣接軌道回路との境界にはレール絶縁継目とインピーダンスボンドが有る。インピーダンスボンドは信号電流は流さずに車両から変電所に帰る帰線電流を流す役目を持っている。
  軌道回路に列車がない場合は電源側から送られた信号電流は反対側の受電端まで流れ、軌道継電器を励磁している。この状態が「列車なし」の状態で、列車がこの区間に進入すると車輪・車軸によって左右レールが短絡されるため信号電流は軌道継電器まで流れず、消磁する。この状態が「列車あり」の状態で、継電器が動作しない場合は前方に列車があるものとして、後方には30信号を送信する。この方法は簡単な原理に基づくものであり、列車検知用と信号用の電流を共通にできる、レールが折損した場合には消磁されるので「列車あり」となり安全側に働くが、絶縁継目が必要で保守、強度上の弱点になり易い。
  軌道回路方式は、送電電流を増加させず妨害電流にも強い信号波を検討した結果、電車線電流の基本波をパイロットとする電源同期SSB(Single Side Band)式AF(Audio Frequency:可聴周波数)軌道回路方式が採用された。
  この方式は搬送波として電源周波数(60Hz)を基に作成した高調波(720〜1020Hz)を使用するもので、電源周波数が変動しても送信用と復調用の搬送波を完全に同一周波数とすることが可能である。送信出力は変調出力の片側帯波(SSB)のみでよいので出力電力を大きくしてS/N比を大きくできる。上り線では上側帯波、下り線では下側帯波のみを送信している。
  軌道回路に送出される信号電流は下の表のように単一周波数となっている。

信号種別別の周波数
信号種別信号波[Hz]上り線搬送波周波数[Hz]下り線搬送波周波数[Hz]
7209008401020
軌道回路に送信する周波数
210107309108301010
160157359158251005
11022742922818998
7029749929811991
3036756935804984
停止0136+P点--
02無電流--
03無変調840900

  搬送波は相互に妨害が起きないよう上り、下り別々の周波数を割り当て、同一線でも2種類の波を使用して隣接する軌道回路には異なる搬送波としてレール絶縁破壊に対処している。
  ATCの信号電流は30から210の各信号に対して10Hzから36Hzの変調周波数を割り当て、これを搬送波で変調して高い周波数の信号電流として伝送している。210信号の場合、地上の固定発信器で発生させた10Hzの信号波を電源のパイロット波60Hzに対して第1回の変調を行いその出力60±10Hzのうち上側帯波70Hzを取り出し、この波を搬送波660Hzで第2回目の変調を行い取り出した730Hzを信号波として増幅し軌道回路へ送出する。変調周波数が低いためそのまま変調すると上・下帯波が接近して選別が困難になるため2段変調している。
 03信号はレールに流すのではなく、レールに沿って張られたループコイル(長さ約50m)に流して車上装置に伝送する。
 車上では、この信号を復調し信号制御変調波を取り出してその速度に対する継電器を励磁する。
 ATC閉そく進路長は東海道新幹線の場合3kmであるが、1軌道回路長は回路の途中での減衰による車両の受信レベルが低下して正確な信号情報の伝達ができなくなるため、1.5kmとしている。すなわち1組のATC送受信機の受持ち長さは1.5kmなので1閉そく区間に2つの軌道回路が用いられている。東北・上越新幹線では1閉そく進路長が1.2kmに短縮され、1軌道回路で構成されるようになっている。
  ATC送受信器は約20〜30km毎に沿線に設けた信通機器室に集中設置され、地中ケーブルを介してインピーダンスボンドに接続されている。
  右図のような無絶縁区間では列車検知用と信号伝送用とそれぞれ別の送信器、受信器(信号伝送用は送信器のみで絶縁区間と同じもの)を用いている。

ウ.車上装置

  ATC車上装置は、軌道回路の信号電流を電磁的に結合して読取る受電器、信号電流を処理する車上受信器、自動制御を行なう論理部、速度照査部、運転台でATC信号の現示、運転速度、速度照査バンドを表示する速度指示装置から構成されている。
  受電器は1方向に流れる電車電流などによる雑音を打ち消して、信号レベルは増加させるため、左右の2個が直列に接続されている。
  210km/h信号が出ている場合、受信した730Hzまたは910Hz信号は受信装置に入り、パイロット波60Hzで同期された復調用搬送波720Hzまたは900Hzによって復調、選択増幅され、10Hzの信号制御変調波成分が取り出され、210信号に対応した継電器が励磁され、車内信号を表示するとともに制御装置に送られる。
  列車の速度は先頭車軸の歯車箱に取付けられた速度発電機によってパルス状交流電圧が取り出されるが、それは速度照査器のF-DC変換部によって列車速度に比例した直流電圧(速度電圧)に変換され、次に比較器のパターン電圧発生部の基準となる直流電圧と比較され、各速度段階に対応した速度継電器の動作に変換される。
  この速度継電器の動作条件が論理部に送られ、信号継電器と付き合わされてブレーキ指令や緩め指令が出されることになる。
  速度照査器は、このように速度に比例した速度電圧を得ること以外に、連続して変化する交流を160〜210km/hなどの7つの速度段階に読替える役割がある。これは、論理部で地上信号と比較してブレーキ動作や緩解の指令を出すことはできるが、これだけでは大小関係しか比較できず、現在の速度が速度段階に対して何段階差があるかが把握できないため、2段階の差で非常ブレーキをかけるというような論理が組めないためである。

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