20.リニアモータって何 浮上式鉄道車両の浮上方式、原理、構造、開発歴史は?

0. 電気の簡単解説

  これから電気関係の用語が色々出てきますので、原理的なものを簡単に解説します。

1. リニアモータとは

  リニア(Linear)とは、「直線の」という意味で、モータは一般に電気エネルギーを回転力に変換するものですが、リニアモータは「そり」のように直線的な推進力に変換するものです。
  東京の大江戸線や大阪の長堀鶴見緑地線のような小型化して建設費の低減を目的とした地下鉄も「リニア」地下鉄、JR総研、東海が開発しているような超高速走行を目指した浮上式鉄道も「リニア」モータカーといっており、両者を明確に区別しないで「リニア」と使っていますが、リニアモータを使っている点では共通です。

  従来の鉄道は車輪とレールの摩擦に基づく粘着駆動方式ですが、一層の高速化等に際して粘着係数に限界がありそうなことや、都市部の後発の深いところを走る地下鉄や丘陵地を走る鉄道は急勾配を採用しなければならないため、粘着によらないで車両に直接推力を与えることのできるリニアモータが注目されたわけです。
  また、リニアモータは回転モータと違って扁平な形をしているため車体の床を下げることが可能で、輸送量のそう多くない線区では車両の小型・低床化によってトンネル断面積を小さくでき、建設費を安くできるメリットがあります。建設費の高くなる地下鉄にリニアモータが採用されるのはこの理由が一番のようです。一般の車両の車輪径が860mm程度なのに対して、リニアモータ地下鉄の車輪径は660mm程度です。

  一般の回転モータは、右図の一番左のように、回転子と固定子が相互に向かい合って回転運動をしており、さらに固定子と回転子のギャップは軸と軸受によって一定値に保たれています。
  このような回転形モータに切れ目を入れて開いたものがリニアモータで、固定子や回転子の長さが有限になること、固定子と移動子(回転子)間のギャップを保持するための機構が別途必要となることが回転モータと大きく異なっている点です。

  電気を供給する側を1次側といっていますが、リニアモータの1次側は、一般に櫛形に溝(スロット)をつけた鋼板を積層し、そのスロットにコイルを埋め込んで構成したもので、コイルを三相接続して三相交流電力を外部から供給するなどしてNS交互に並べた磁石列が移動するような移動磁界をギャップ中に発生させます。
  2次側は1次側が発生する移動磁界との相互作用で推力を発生します。その推力発生原理から、回転モータと同じように色々な分類が考えられますが、鉄道では、リニア誘導(インダクション)モータ、リニア同期(シンクロナス)モータが主に使われます。
  これらの分類方法の外に、移動磁界を発生する1次側が固定部か可動部かによる地上1次式と車上1次式、いずれが長いかによる短1次式と長1次式などに分類されます。
  トランスラピッドは地上1次リニア同期モータ式で、地上側をロングステータといっており、途中で開発を中止した車上1次誘導モータの車上側をショートステータと呼んでいます。HSSTは、この分類からするとショートステータです。

○リニア誘導(インダクション)モータ(LIM:Linear Induction Motor
  1次コイルをインバータなどの可変周波数交流電源で励磁することでギャップ中に可変速の移動磁界を発生させ、二次導体に誘導される渦電流との相互作用で推力を得るものです。車両の場合は、右図のように1次側を車体にして、2次側は地上の左右レールの間に枕木に固定して設置され、リアクションプレートと呼ばれています。リアクションプレートは鉄板(ニ次鉄心)に導電性に優れたアルミ板などを貼り付けた構造です。移動磁界の移動方向と車両の進む方向は逆になります。
  リニア誘導モータは地上側の構成が最も単純で建設費も安価ですが、力率や効率が比較的悪く、さらには一次側の長さが有限長であることに起因する端効果による特性劣化もあり、比較的小容量の中低速システムに適するとする見方が一般的です。車上一次の場合、地上からの集電が必要になります。
  また、磁石とリアクションプレートとの間隔は小さいほど大きな力が得られますが、リニアモータは一般に軸ばねの上の台車枠に固定されているので、乗客の荷重の変化等で上下するため、あまり小さくするとリアクションプレートと接触する危険性があり、地下鉄では12mm程度に管理されています。

○リニア同期(シンクロナス)モータ(LSM:Linear Synchronous Motor
  リニア誘導モータと同様に、1次コイルをインバータなどの可変周波数交流電源で励磁することでギャップ中に可変速の移動磁界を発生させますが、これと2次鉄心にコイルを巻き付けた電磁石や永久磁石によってつくられる界磁との間に働く力を利用します。2次側は1次側の移動磁界と同期して(同じ速度)動きます。
  右の図のようなままだと1次側と2次側が磁力によってくっついてしまうので、ギャップを保持する車輪等の機構が必要です。
  同期モータ方式の場合、推進のための主要部分が地上側に設置されるため、大出力が必要な高速システムでも車載機器の容積・重量はほとんど増加せずまた、推進に要する電力は地上コイルの巻線に供給されるため、車両自身が必要とする電力は空調用等わずかなので、非接触集電が採用できます。

○超電導磁石を利用したリニア同期モータ
  右の図は超電導磁石を用いた場合のリニアモータのイメージで、極めて強い磁界の得られる2次側の超電導コイルに鉄などの強磁性体を鉄心に使用すると磁束が飽和してしまい、強力な磁界を有効に活用できないので、空心のコイルとなっています。この場合、強磁界が1次側以外の空間に広がってしまうため、磁気シールド方法や磁気損低減を考慮する必要があります。

2. 浮上式鉄道の種類と浮上原理

  リニアモータを使えば推進力や制動力が車両本体に作用するので、車輪は車両を支持、案内するだけの役割を果たすことになりますが、時速500km/h以上を目指す超高速鉄道や車輪のころがりによる騒音・振動等を少なくしたい場合は、車輪・レール間の接触がないために粘着や台車だ行動の問題がなく転動音の出ない磁気浮上技術などの非接触支持技術を導入して支持車輪をなくすことが必要になります。
  また、車両を浮上させるとその荷重を面で受けるようになるので、車両の軽量化、けた構造の小型化も期待でき、回転モータやレール・車輪の接触がないので保守費や消費エネルギーを低減できるともいわれています。
山梨リニアトランスラピッド HSST
  高速で移動する超電導コイルによって地上の浮上コイルに誘導電流が流れ、それによって生じる等価的な磁石と超電導コイルとの相互作用によって浮上する。浮上高さは最も高い。浮上コイルが案内も兼ねる。
  宮崎実験線では対向反発浮上方式だったが、山梨実験線では損失の少ない側壁浮上方式になった。
  この浮上コイルは正面から見ると8の字の形で、誘導電流の向きが反対になり、上下は異極になる。
  LSMの解説図を上下反対にしたようなもので、車両の電磁石と地上のリニアモータ鉄心との間の吸引力を利用して浮上する。
  停止時でも浮上可能だが、限界を超えて離れると2度と付かなくなるので一定以上離れないような工夫が必要。
  案内用の電磁石を別に持っている。
  トランスラピッドが1次側コイルの鉄心との吸引力を利用しているのに対して、車両の電磁石と地上の浮上・案内レール間の吸引力を利用している。
  トランスラピッドとほぼ同じ仕組みで浮上するが、電磁石等の形を工夫して車体の案内も同時に行っている。

  これらを実現したのが浮上式鉄道で、最近色々な話題がでているものは、JR総研と東海が開発、世界最高速度を達成し、走行試験を継続している山梨リニア(JRリニアモータカー)、2002年12月31日、中国の朱鎔基首相と技術を提供したドイツのシュレーダー首相を乗せて試乗会が行われた上海リニア(トランスラピッド)、2005年の愛知万博輸送に向けて走行試験を行っている愛知万博リニア(HSST)が代表的なものです。
  磁気浮上車両は、磁気浮上を意味する magnetic levitation を略して maglev (マグレブ)と呼ばれます。
  右の図は、これらの鉄道の浮上方法の原理を示したものです。
  これだけ重い車両を持ち上げるためには相当のエネルギーを使いそうな印象を受けますが、浮上のために基本的にはエネルギーは使われず、界磁を発生させるための電流による損や界磁が移動することによって発生する誘導損などが主で、HSSTでは車両重量1トンあたり1kW以下になっています。

  トランスラピッドHSST「吸引式」で、電磁石の吸引力と車体にかかる重力とをバランスさせて一定の高さを保ちます。そのためには、ギャップをセンサーで常に計測して電流を高速に制御する必要があります。
  ギャップは10mm程度と小さいので、この寸法を曲線等を高速で走行する場合でも一定に保つ制御や悪い地盤、地震等による構造物の変状に対応することは難しいと思われます。

  山梨リニア「反発式」で、同極の磁石同士では反発しあい、異極同士では吸引しあう性質を利用したもので、2つの磁石が近づけば反発力が強くなり、離れれば弱くなって2つの磁石間の距離は自動的に一定に保たれるため、特に制御は必要ありません。強い磁界が得られる車上の超電導コイルによって約10cmという高い浮上力が得られます。地上側の浮上コイルには超電導コイルが接近した場合のみ電磁誘導によって電気が流れます。地上側のコイルは、鉄心を用いると超電導コイルとの間に吸引力が働いて抵抗が大きくなり走れなくなるため空心コイルです。電磁誘導現象を利用するので、150km/h程度以下では十分な浮上力が得られず、車輪走行が必要になります。

3. 実際の浮上式車両の構造等

日本 ドイツ
方式 超電導磁気浮上式鉄道
リニアモーターカー
常電導磁気浮上式鉄道
HSST(High Speed Surface Transport)
常電導磁気浮上式鉄道
トランスラピッド(Transrapid)
開発主体(財)鉄道総合技術研究所、JR東海 トランスラピッド・インターナショナル
開発目的 高速都市間輸送
 実績:552km/h(1999年)
 目標:500km/h(営業最高速度)
都市内・都市近郊輸送(空港アクセスを含む)
 実績(無人):307km/h(1978年、補助加速装置)
    (有人):110km/h
 目標:100〜300km/h
ヨーロッパ大都市間の鉄道システム
 実績(有人):450km (1993年)
 目標:400〜500km/h
 上海:430km
概要   新幹線の次世代鉄道として旧国鉄が開発に着手。宮崎リニア実験線で基礎試験を終了後、より営業線に近い山梨リニア実験線で国鉄改革後は(財)鉄道総研とJR東海が国の補助も受けながら現在2編成を使用して試験走行中。
  1997年12月24日には世界最高の550km/h(無人)を達成。コスト低減等の技術開発を進めている。
  約10cm浮上
  成田空港アクセス用に日本航空が開発に着手。1985年10月に(株)HSST、93年にHSST開発(株)に開発が継承された。
  1989年8月には名鉄主体の中部HSST開発(株)が発足し、2005年開催の愛知万博「愛・地球博」会場へのアクセスとして、地下鉄藤ヶ丘駅から愛知環状鉄道八草駅を結ぶリニモ(東部丘陵線)を開発した。日航は00年完全撤退した。
  1cm弱(設計上は8mm)浮上
  1970年代初期に新しい高速鉄道の各種方式を比較検討した結果、西ドイツの研究技術省は常電導磁気浮上式鉄道のトランスラピッド方式採用を決定した。
  その後、TR08まで試作車が作られ、その成果を元に企業連合のトランスラピッドインターナショナル社が中国に売込みに成功、2002年12月31日、上海の浦東新区の竜陽路駅と30km東の浦東国際空港間とのアクセス鉄道に登場。
  1cm弱浮上
寸評   中央新幹線(東京・大阪間)500kmを1時間で結ぶ構想があるが、新幹線の3倍程度の建設費がかかるといわれており、地上コイル数減等による建設費低減が欠かせない。   阿佐線、広島空港アクセス、大船ドリームランド等と構想が浮かんでは消えたが、愛知万博を契機に名古屋の東部丘陵線に採用が決まり、今までの努力が報われた。   トランスラピッドもドイツ国内外に構想はあったものの採用に至らず展望が開けなかったが、上海で一息ついた感じ。
  北京−上海間は日本の新幹線と競争で、次は難しそう。
断面
方式 ・地上一次リニアシンクロナスモータ(LSM)
 車上超電導コイル
・側壁コイルによる案内兼用誘導反発吸引式磁気浮上
・非接触集電。しかし、低速走行時の補助電源が別途必要
・車上一次リニアインダクションモータ(LIM)
 地上リアクションプレート
・案内兼用常電導吸引式磁気浮上
・架線からの接触集電。
・地上一次リニアシンクロナスモータ(LSM)
 車上電磁石コイル
・常電導吸引式磁気浮上 側部案内磁石
・非接触集電。停止時等の補助電源はバッテリ+地上集電
原理   超電導現象による強力な電磁石の磁力を利用して浮上、走行する方式。
  車両の超電導コイルを車両基地で超電導温度まで冷却、永久電流を流し、電源からの供給線を外すと、それ以降は永久電流モードとなって電力の供給は不要になり、一種の永久磁石のようになる。
  地上の推進コイルを電気を供給する1次側(ステーター)、この超電導永久磁石を2次側とするリニア同期モータの原理で車両を進める。
  次に、この超電導永久磁石が高速で動くことで地上の浮上・案内コイルに発生する誘導電流によってできる仮装磁石との相互作用によって車両を浮上、案内する力が発生する。従って低速では浮上、案内力が発生しないので、浮上するまで支持車輪、案内車輪によって走行する。
  対向反発浮上式の場合は 車体が浮くイメージがあったが、側壁浮上式では車輪を格納して超電導磁石が浮上コイルの中心より下がって上下力がバランスする。
  非接触集電方式を採用しているが、高速にならないと起電力が発生せず集電できないので停止時等には補助電源等のために車載発電機や外部電源が必要になる。
  制御は全て地上側から行われ、運転台は必要ない。
  通常の電磁石の吸引力を利用して車両を浮上させ、走行する方式。
  地上の桁の両サイドにレールの断面形状を逆U字形とした浮上・案内レールを置き、その下に通常の車両の台車に相当するモジュールのU字形の電磁石を約1cmの隙間を置いて対向させ、電磁石の電流を制御して浮上させる。
  推進力は、大江戸線などでおなじみのリニア誘導モータで、浮上・案内レールの上面はアルミのリアクションプレートになっている。
  モジュールには2個の電磁石を1組として2組搭載し、それらを内外に少しずらして配置してペアの電磁石の合計浮上力が変わらないように保ちながら電磁石の電流を変えることで横方向の案内をしていたが、現在は横方向案内力は吸引力による復元力をそのまま利用している。
  車上一次方式であり、浮上・案内コイルとリニア誘導モータに電気を供給するために、地上から接触集電している。
  制御は従来の鉄道同様、運転士によって運転台から行われるのが基本であるが、ATOによる自動運転も可能である。
  通常の電磁石の吸引力を利用して車両を浮上させ、走行する方式。
  地上の桁の両サイド下面に鉄心入り常電導コイル(ロングステーターと呼んでいる)を置き、浮上はこのコイルの鉄心(ステータパックと呼んでいる)と車上の浮上用電磁石との吸引力により、推進は1次側となる常電導コイルと2次側となる車上の界滋用電磁石(浮上用電磁石が兼ねる)との相互作用によって行われる。
  浮上高さは約1cmに制御され、1次側となるロングステーターと2次側となる車両の常電導磁石とのギャップを一定に制御して浮上し、ロングステーターの磁界を移動させることにより推進する。
  案内は、案内用の電磁石を車両に取り付け、ガイドウェイ側面の鉄レールを吸引することによって行う。
  地上1次方式であり、動力用の集電は不要であるが、車両の浮上用、ガイド用コイルを励磁して常電導磁石とするためや補助電源、バックアップ用車上搭載バッテリ等への電気の集電は非接触集電方式を採用している。
  制御は全て地上側から行われ、運転台は必要ない。
特徴   地上のガイドウエイにはコイルを取り付ける側壁が付いており、その側壁には変電所から電気を受け1次側となる推進用コイル2層(電磁力の変動を小さくするため)と通常は電気が流れない浮上案内コイルが3層構造になって取り付けられている。
  浮上コイルは8の字の導体を2つ合わせて1つの田の字コイルにしたもので、図の一部はその様子がわかるように書いているが実際は一体で成型されているので、外からは四角な板にしか見えない。
  車両はアルミ合金製セミモノコック構造の採用と小断面化によって軽量化が図られ、軽量化、台車減と磁気の乗客への影響を避けるために連接台車方式となっている。
  台車はアルミ合金を用いた溶接構造とジュラルミン製のリベット構造で、超電導磁石を搭載し、推進・浮上力を車体に伝達するとともに、低速走行時の支持・案内脚装置や各種機器作動のための油圧装置などを積載している。
  低速走行時のリニア車両は浮上しないため、ダンパ付きの支持車輪、案内車輪によって走行するが、浮上走行時にはそれらを台車の内部に収納する。
  異常時は最高速度域の500km/hからの着地・走行が可能なものとし、タイヤに異常があった場合は、そのバックアップとしてタイヤに並列に外接輪と称する一回り小さい径のアルミ製ディスク輪を設けてあり、異常時はこれで走行することとなる。勿論、このような場合は、緊急ブレーキも作動する。
  更に、車両走行中に超電導磁石のクエンチ(超電導状態が生滅し、磁力を失う状態)が発生した場合、案内車輪を出すのが間に合わないため、車両がガイドウェイと接触する恐れがあるので、アルミ製及びステンレス製のディスク輪で、台車の左右方向に案内ストッパ輪装置、上下方向は緊急着地輪装置を装備している。
  台車−車体間には乗り心地改善用に空気バネ及びダンパ等のサスペンション機構及びけん引機構などがある。
  500km/hという高速から安全確実に停止するためのブレーキとしては、地上側で作動させる電気ブレーキと車両で作動させる車上ブレーキがある。
  通常は地上で推進コイルに流す電流を制御して制動力を得る電力回生ブレーキを使用し、このブレーキが故障した場合のバックアップブレーキとして、地上コイルを抵抗に利用したコイル短絡ブレーキ及び発電ブレーキがある。これらは車上ブレーキと組合わせて使用する。
  車上ブレーキには、高速域の550km/hから単独で停止できる空力ブレーキ、中・低速域からの車輪ディスクブレーキがある。空力ブレーキはブレーキ板を車体上部に立て、空気をせき止めて空気抵抗を増大させてブレーキカを得るものである。
  車体はアルミ合金製で、床面高さはレール面上800mm程度と小さく、軽量化、低重心化されている。
  通常車両の台車に相当するものがモジュールと呼ばれているもので、これには浮上力及び案内力を発生するマグネット2組と、推進力を発生するリニア誘導モータ1台、油圧ブレーキ装置、スキッド、2組のギャップセンサ、加速度センサユニット、非常ローラ等が剛性の高い箱状の枠に取り付けられている。システムは1台のマグネットドライバユニット(MDU)により制御され、各々独立して浮上案内を行う。
  このモジュールは長さ2.5m程度で、車体長にもよるが、車体の左右に各5基、合計10基配置され、左右の相対するモジュールは互いにアンチ・ロール・ビームで結合されて、その1組が1つの台車のように機能する。
  着地停止時にはスキッドでレールと接触し支持される。スキッドは最大勾配上でも駐車ブレーキの機能を果たす。
  浮上系が故障の場合の非常移動用として油圧で出し入れする非常用ローラも備えている。
  普通の台車と違い車体に連続して取り付けられているモジュールと車体間の上下、左右、前後方向の力の伝達、相対変位は、車体下面に前後のモジュールをまたぐ形で取り付けられた摺動台(スライドテーブル)という部品をを介して行われる。
  モジュールと摺動台間には各モジュール毎に2個の自動高さ調整弁付きの空気ばねが有り、車体荷重をモジュールに伝えると共に、モジュールの動きを緩衝して車体に伝える。
  横風や遠心力による車体の横荷重を平均化して各モジュールに伝達する機構は、メカニカル・ラテラル・コントロール・システムと呼ばれ、リンク、クランク、ケーブル、スプリング等を組み合わせて構成している。
  モジュールの推力は棒状のスラストロッドによって摺動台に伝えられ、次にリニアベアリングを介して車体に伝えられる。摺動台とリニアベアリングによりモジュールの横方向の動きは阻害せずに推力のみを伝達する。
  吸引力は、電磁空隙8mm、定格電流で9.8kN/m以上となっている。LIM・リアクションプレート間のギャップは14mm。
  浮上電源は、DC1500Vを電力変換装置(PSU)で変換したDC275Vによるが、この系はバッテリによりバックアップされており、電源異常時にも最低30秒間の浮上維持が可能になっている。
  車両側の浮上・推進用電磁石と案内用電磁石は、HSSTと同様に、一つの構造体に取り付けられるモジュール構造となっている。
  しかし、HSST浮上・案内兼用方式ではなく、案内のために専用の電磁石を備えている。
  浮上高さは約10mmで、浮上時のガイドウエイ天端と車体下面の寸法は150mmあり、小さな支障物や雪の上も走行可能。浮上に必要なエネルギーは空調用以下である。車載バッテリによって外部電源なしで1時間以上浮上可能。
  走行中は浮上コイルの磁極部分に組み込まれたコイルによるリニア発電機で充電される。
  乗降場などの停止位置にはガイドウエイに設けた給電用レールから受電する。
  車体・モジュール間等の詳細な構造は不明。

4. 磁気浮上式鉄道開発の歴史

  超電導磁気浮上式鉄道
リニアモーターカー
常電導磁気浮上式鉄道
HSST(High Speed Surface Transport)
常電導磁気浮上式鉄道
トランスラピッド(Transrapid)
  1962年:リニアモーター推進浮上式鉄道の研究開始   1969〜1977年:各種の車両の開発
1969年:高速磁気浮上列車の開発決定
1970 超電導磁石による誘導反発方式の本格的検討開始   国の研究技術省が磁気吸引式リニアインダクションモーターのプロトタイプTR-01を開発
1971     ミュンヘンの長さ660mの実験線でMBBのリニア誘導モータ(非同期ショートステータリニアモータ)駆動磁気吸引式のTR-02走行試験開始。(1両、空車4.8t、4席、最高速度90km/h)
1972 超電導磁気浮上LIM推進実験車ML100浮上走行成功   〜73:長さ930mの実験線で磁気吸引式のTR-02と空気浮上式のTR-03の走行試験を行い、TR-02に一本化、164km/hを記録。
1973 TR-04走行試験開始
1974   1月:西ドイツの技術を基に日航技術陣による研究開始。
3月:実用機の基本構想を固める。
    目標実用速度を時速300kmに設定。
4月:小型磁気浮上実験装置による浮上テストに成功。
TR-04で250km/hを達成
(18t、15m、24座席)
1975 超電導磁気浮上LSM推進実験車ML100Aによる完全非接触走行成功 11月:羽田の日本航空整備工場で実験1号機完成。
12月22日:横浜市杉田の200mのテストコースで吸引式磁気浮上、リニアモーター推進方式として日本初の飛行に成功。
 
1976   1月:内外の記者団に初公開、一躍全世界の注目を集める。
9月:川崎市東扇島に全長1,300mのテストコースが完成、実験を再開。
 
1977 車両搭載用冷凍機の第1号完成
1977年7月宮崎実験線開設。逆Tガイドウェイ走行試験開始(ML500)
  研究技術大臣はリニアインダクション方式から常電導地上一次リニアシンクロナス方式へのシステムの一本化
1978   2月:1号機、東扇島で時速307.8kmを記録、目標速度達成。
5月:2号機公開試乗を開始。
   自民党政務調査会にHSST建設促進特別委員会発足。
9月:国会議員調査団が欧米の開発状況を視察。
 
1979 宮崎実験線7.0km区間完成
5月:ヘリウム冷凍機搭載実験(ML-500R)
12月:7kmの区間で最高速度517km/hを記録(ML-500)
2月:東扇島のテストコースを1,600mに延長、曲線半径2,000m、同280mのカーブを設置し、1号機と2号機による曲線部での走行実験を実施。 ハンブルグ国際交通博でTR-05一般公開(75km/h、908m)。(26m、空車30.8t、68席)
3週間のシャトルサービス実施で5万人以上が乗車。
1980 1980年11月:宮崎実験線U形ガイドウェイ走行実験開始(MLU-001) 4月:グスタフ・スウェーデン国王ご夫妻国賓として試乗。  
1981 11月:2両連結走行実験を開始 1:走行回数921回、走行距離1,519km
2:走行回数1,456回、走行距離3,802km 搭乗者約3,000名
3月:東扇島実験場閉鎖。
6月:上野科学博物館に1号機、2号機を寄贈。
 
1982 9月:有人走行実験開始
9月:3両連結走行実験を開始
3月:1985年の筑波国際科学技術博覧会に出典を決定。  
1983 8月:1両で400km/h達成   エムスランド試験線(20.3km)完成 TR-06走行試験開始
(2両編成、54.2m、幅3.7m、192席、最高速度400km/h)
1984
1985 2〜3月:ガイドウエイ不整試験開始 3〜9月:筑波科学博(全長350m、単線)でHSST-03運行。
コースが短いため最高速度は時速30kmながら、184日の期間中に61万1,068人が搭乗。
10月:今後の開発を(株)HSSTに継承。
TR-06で355km/hを達成。
1986   5〜10月:HSST-03 バンクーバー交通博(全長450m)で展示走行。約47万人が搭乗。  
1987 2月:MLU-001(2両編成)による有人走行400.8km/hを記録
4月:国鉄の分割民営化に伴い,鉄道総研が研究開発を承継
6月:実験車両MLU002走行実験開始
3月:HSST-03 岡崎「葵博」を機に展示走行(全長180m)、その後岡崎に保存  
1988 10月:超電導磁気浮上式鉄道検討委員会(委員長:松本東理大学教授)発足 3〜5月:HSST-04(1両、70席)埼玉博(熊谷市)全長約330mの高架軌道で展示走行。24万人搭乗
4月:横浜博HSSTに磁気浮上式初の鉄道事業免許交付
1月:TR-06 412.6km/h達成
試験線延伸部完成(総延長31.5km)
1989 11月:MLU−002による無人走行394km/hを記録 3.25〜10.1:HSST-05(実用車2両、158席)横浜博線(全長568m、高架、2駅)で営業輸送。
8月:中部HSST開発(株)設立
11月:都市内交通型磁気浮上式リニアモータカー実用化調査研究会」設置
TR-07走行試験開始
1990 6月:運輸省は、鉄道総研、JR東海及び日本鉄道建設公団の3者に対し技術開発の基本計画及び山梨実験線の建設計画を承認
11月:山梨リニア実験線着手式開催
4月:大江実験線(1.5km)建設開始  
1991 側壁浮上方式走行実験開始
10月:宮崎実験線で車両火災が発生し、MLU-002が全焼
5月:大江実験線完成 HSST-100の試験開始  
1992
1993 1月:宮崎実験線で、防火対策を施したMLU-002N走行実験開始 6月:目標の延べ3.5万km走行達成、1995.3まで継続 6月:TR-07 435km/h達成
1994 2月:MLU-002Nによる無人走行431km/hを記録
1995 1月:MLU-002Nによる有人走行411km/hを記録 3月:特殊鉄道構造規則の改正
5月:車体長を長くしたHSST-100L試験線に搬入、調整試験開始、7月末から確認走行試験、12月から長期走行試験
(大船ドリームランド線に採用される予定だったが、×)
 
1996 7月:「超電導磁気浮上式鉄道山梨実験センター」発足
1997 1月:超電導磁気浮上式鉄道技術評価委員会(委日長:松本東京理科大教授)発足
4月:山梨実験線先行区間において実験用第1編成車両(MLX-01)が走行実験開始
12月24日:山梨実験線において無人走行550km/h、有人走行531km/hを記録
   
1998 2月:実験用第2編成車両が走行実験開始
1999 4月:5両編成の車両による有人走行552km/hを記録
11月:高速すれ違い試験で相対速度1,003km/hを記録
11月:名古屋東部丘陵地域「あいち学術研究開発ゾーン」への導入機種としてHSSTシステム導入決定 8月:TR-08 走行試験開始
(3両編成、78.7m、幅3.7m、高さ4.2m、311席、最高速度500km/h)
2000   2月:インフラ等を建設し運営する愛知高速交通(株)設立 6月:上海浦東国際空港のアクセス鉄道としてトランスラピッドの採用が決定。
2001 12月:最高1日走行距離1,100kmを記録   1月23日:上海マグレブ建設に関する契約を上海市とトランスラピッド・インターナショナル、シーメンス、ティセンクルップの企業連合間で締結
2002   11月12日:東部丘陵線HSST先行車両1編成と愛称「Linimo」(リニモ)を大江実験線で公表、走行試験開始。
アルミ製全電動車3両編成(43.3m長、2.6m幅)。定員244人。
最高速度100km/h。加・減速度4.0km/h/s。
製作数は先行車両を含め8編成24両
12月31日:上海浦東地区の龍陽路駅から浦東国際空港駅まで約30kmを7分20秒で結ぶ世界初の営業運転を開始。処女列車は中国の朱鎔基首相と技術を提供したドイツのシュレーダー首相 他約200人が乗車。5両編成の単線シャトル運行(線路は複線)で、最高速度は430km/h。
2003 12月2日:有人走行で世界最高の581.7km/hを記録 11月:リニモ(東部丘陵線)車両基地に搬入し、基地内での走行を開始 12月に 2003年は、中国四川省成都郊外にも青山磁気浮上線420mが完成、観光客向けに営業運転開始。
2004 6月:芸大通〜万博会場〔現行:愛・地球博記念公園〕で調整・試験走行開始。
10月:地下区間を含む全線で調整・試験走行開始。
2005 3月11日:国土交通省超電導磁気浮上式鉄道実用技術評価委員会で「実用化の技術基盤が確立したと判断できる」との総合評価を受けた。 3月6日:藤が丘〜万博八草〔現行:八草〕)間開業
開業時から愛知万博(3/25〜9/25)後の9月26日まで万博輸送。八草駅は開業時から2006年3月31日まで万博八草駅と呼んだ。
 
2006 3月:累積走行距離が50万kmを超える。
9月25日:JR東海が「山梨リニア実験線の設備更新および延伸に係る設備投資計画の決定について」公表
  8月11日:午後上海リニアでバッテリーの故障により火災発生
9月22日AM9時53分(日本時間同PM4時53分):ドイツ北西部ラーテンの全長31.5kmのエムスランド実験線で170km/hで計測走行中の3両編成トランスラピッド(TR08)と軌道上で停止していた確認車と衝突、23人が死亡する事故が発生。
2007 1月23日:国交省がリニア実験線の延伸を承認
「技術開発の基本計画」と「山梨実験線の建設計画」であり、技術開発期間がこれまでの2009年から2016年までになり、実験線は18.4kmから42.8kmに延伸される。車両14両が新たに製作、旧設備は更新される。工事費は車両新製を含めて3550億円で全額JR東海が負担する。

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