16.主回路、補助回路とは? どんな機器があり、どこに付いているの?

1. 直流電車の電気回路

  車両の電気回路を大きく分類すると、主回路、補助回路、制御回路の3つに分けられます。下の図は、一般直流電車の主回路、補助回路の概要図です。
  主回路は、電車線から主電動機に至る車両駆動系の回路で、大きな電力を必要とするため、電圧が高く、また、車両の速度に応じた電動機のトルク、回転数を制御するための工夫が必要になります。
  補助回路は、空調機、各種送風機などの機器を動かす回路で、電圧は440V〜100V程度ですが、車両には色々な機器が付いており、それらに応じた電気種別を供給してやる必要があります。
  制御回路は、これらの機器を必要に応じてオン、オフさせてやるための回路で、100V以下が一般的です。制御回路は、車両の各機器を動作させる神経のような役割を持っており、多種多様ですが、 大変重要な回路であり、停電や事故時でも回路が遮断されないようにバッテリーともつながっています。
  これらの構成は、直流、交流などの電気方式によって大きく異なり、また、技術の進歩や鉄道事業者のサービスレベルなどへの考え方によってもかなり違っているようです。

記 号意 味
Pan:パンタグラフ
Arr:アレスタ(避雷器)
MF:主断路器
HB:高速度遮断機
LB:単位スイッチ
CHRe:充電抵抗器
FL:フィルターリアクトル
DCPT:直流電圧検出器
DS:放電用スイッチ
DCHRe:放電抵抗器
DVCRf:過電圧抑制サイリスタ
OVRe:過電圧抑制抵抗器
FC:フィルタコンデンサ
CTU、V、W:電流検出器(U、V、W相)
CTS:電流検出器
GS:接地スイッチ

  図の主回路は、現在主流のIGBT素子を使ったVVVFインバータ制御方式で、インバータで直流1500Vを車両の速度に応じた周波数、電圧の三相交流にVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)制御します。
  回生ブレーキ中は、インバータをコンバータ(整流)運転し、3相交流を直流1500V(架線に返すためこれよりやや高め)に変換します。
  CTなどは制御用の計測器、DCPTやOVCRfなどは回路保護用の機器です。
  図の例は、1台のインバータ制御装置(Controller)で4台の電動機(Motor)を制御しているので1C4Mといっています。JR西日本のスーパー雷鳥の683系特急電車のような1C1Mから1C8Mまで有りますが、 故障時の対応、素子容量等から1C4Mが最も多く、2両分の制御装置(1C4M)をまとめて1両に搭載する1C4M2群方式もあります。
  補助回路方式はこれも様々な方式がありますが、図の例では直流1500Vを定電圧定周波数の3相交流に変換、降圧し、3相や単相機器に電気を供給し、更に整流して直流100V等の制御回路に電気を供給します。
  図では、3相440Vに変換していますが、鉄道会社によって、200、220Vなどもっと低圧に変換する場合や、DC−DC直接変換する場合などがあります。

2. 新幹線の電気回路

(1) 主回路構成
  単相交流を電源とする新幹線の主回路は、大きく2つに分かれており、特高圧の1次回路は、交流25,000Vの架線からパンタグラフによって集電され、床下の高圧機器箱内にある真空遮断器、避雷器を経て主変圧器に至ります。
  2次回路は、主変圧器2次巻き線から先で、変圧器で降圧され、電力変換を行う主変換装置に入り、そこで単相交流→直流→三相交流という変換を受け電動機に至ります。 電力回生ブレーキ時には、電動機→主変換装置(3相交流→直流→単相交流)→変圧器→架線と、逆の流れになります。
  下の図は、2両ユニット方式の場合の新幹線電車の主回路を主体とした概略回路図です。
  パンタグラフは編成に2台しかないので、パンタグラフのない電動車両ユニットには屋根上で高圧母線が引き通されており、そこから電気を受けることになります。高圧機器箱、主変圧器は各M2車に、 主変換装置はM1、M2車にそれぞれにあり、各4個の電動機を制御しています(1C4M)。
  これらの構成は1ユニットをどういう単位で考えるかによって変わります。
  東海道・山陽新幹線の700系では3M1Tが基本で、1つの変圧器に3つの主変換装置が付いており、それぞれ、M1車に1台、M2に2台配置し、M'車は変圧器のみとなっています。
  この図の車両は、主変換装置に、IGBTを用いた3レベルインバータ・コンバータを用いています。
  主変換装置は、コンバータ・インバータから構成されることからCI(Convertor Invertor)と呼ばれています。

(2) 主回路機器
  図で表示している主回路の主な機器の機能等は次のとおりです。
機器名略 称機  能  等
パンタグラフPan
[Pantograph]
 動力源の電気を走行しながら外部から取り入れる装置をパンタグラフ(集電装置)といい、架線と高速で接触しながら集電し、架線の上下変異に追随し、運転台からの操作で上下できなければなりません。
  バネ上昇、空気下降方式が一般的です。架線への押し付け力は5.5kg程度で一定ですが、雪対策として初期押し上げ力を高めにしている例もあります。
  形状は、菱形が多かったのですが、部品数の少ない「く」の形をしたシングルアーム式に変わってきています。
保護接地装置EGS
[Emergency Grand Switch]
故障等によって真空遮断器で主回路の遮断ができなくなった場合、電車線に異常が発生して架線を無電圧にしたい場合等に操作して架線を強制接地し、車の安全を守ります。
  また、高圧機器箱内の点検時、万一パンタグラフが上昇しても感電事故が起きないように接地しておく役割もあります。
  運転台および配電盤のスイッチで電源と空気があれば何時でも投入可能になっていますが、解放する場合は安全上高圧機器箱が完全に閉じている場合のみ可能です。
高圧機器箱    床下に取り付けてあり、真空遮断器、避雷器及び床下用ケーブルヘッドを収納しています。
  主要機器を保護しながら点検にも便利であり、かつ人体を感電事故から守るためのものです。
真空遮断機VCB
[Vacuum Circuit Breaker]
  主変圧器2次側以降の回路に故障が生じた時に、過電流を0.1秒以下の高速で遮断するもので、通常の場合は主回路の開閉を行う一種の開閉器でもあり、遮断器と開閉器の2つの役目を持っています。
  補助空気圧低下、1,3次過電流検知、1,3次接地検知、主変換装置故障等の際に自動的に遮断されます。
交流避雷器Arr
[Arrester]
  雷及び開閉サージから機器を保護するためのものです。
主変圧器MTr
[Main Transformer]
  特高圧で導入した電力を主変換装置等の各機器に供給するために電圧の変換を行います。
  概ね、次のような仕様です。
容量電圧 電流
1次側2875KVA25kV 115A
2次側2570KVA1100V 2×584A
3次側 305KVA385V 792A
主変換装置CI
[Converter Inverter]
(PWM:パルス幅変調)
[Pulse Width Modulation]
  主電動機の電源を制御するもので、コンバータ、直流回路フィルタ、インバータ、真空接触器などの主回路機器とゲート論理回路、制御電源などの制御回路機器をまとめた一体箱構造になっています。
  コンバータは順変換装置(整流)、インバータは逆変換装置ともいいますが、回生時は同じ機器が逆の役目を果たします。
  概ね、次のような仕様です。
方式コンバータ部単相電圧形PWMコンバータ
インバータ部3相電圧形PWMインバータ
定格入力単相1100V
中間直流回路DC2600V 500A
出力3相AC2000V 424A 0〜220Hz
主電動機MM
[Main Motor]
  平行カルダン歯車形たわみ軸継手方式 強制風冷式 かご形誘導電動機が使われています。
  概ね、次のような定格です。
容量電圧電流周波数すべり回転数
300kW2000V106A140Hz1.4%4140rpm(300km/h時、6120rpm)


(3) 補助回路構成
  補助回路は、空調機など車両に積んだ色々な機器に電気を供給する電気回路で、それらに応じた電気種別を供給してやる必要があります。
  下の図は、8両編成の新幹線の補助回路系統図で、主変圧器3次巻き線以降の回路になります。

(4)主な補助回路機器
  図で表示している補助回路の主な機器の機能等は次のとおりです。
電気種別機 器 名機 能 等
AC400V空気調和装置   床下に1両当たり2台搭載されており、圧縮機、室内・室外ファン及びヒータから構成されています。
  ファンは定回転数で圧縮機は内蔵のインバータ装置で回転数制御されます。ヒータはON/OFF制御です。
  1台当たり 冷房能力:34kW 暖房能力:20kW 循環風量60m3/min です。
連続換気装置   トンネル通過中、気圧変動が車内に伝わることも防ぐため、静圧特性の大きい送風機を用いています。
  給気30m3/min 排気26m3/min 静圧380mmaq です。給排気量の差は、2両に1個所の便所から排気する分です。
  便所排気装置は、排気量8m3/min 静圧380mmaq です。
  ドアを開いたときの耳つんを防止するため、車内外を貫通する穴をあけて30km/h以下で車内圧開放弁を動作させ、車内圧を解放しています。
電動空気圧縮機   車両の空気源を作るもので、往復形単動2段圧縮 水平対向4シリンダ形です。
  空気はブレーキ制御器付属の元空気だめを経てMR管(元空気だめ管)の引き通しに至ります。そこから各空気だめに至りますが、供給空気だめからは台車の空気ブレーキへ、制御空気だめからは制御空気回路へ供給されます。
  MR管が、8kg/cm2でONし、9kg/cm2でOFFします。
補助電源装置   静止形変換装置ともいい、車両搭載の各機器に電源を供給するための電源になるもので、定電圧(CVCF)変圧器、補助変圧器(ATr)、整流装置等から構成されます。
DC100V 戸及び押さえ装置 ドアの開閉と、ドアを車体に押し付けて気密を確保します。
車内照明
(一部予備灯を兼用)
インバータ点灯方式で、セクション通過時の瞬停によるツラツキを防止するために直流電源としています。
補助空気圧縮機 出区時など圧力空気のないときに、パンタ上昇やVCB投入用の圧力空気を作ります。
標識灯 先頭 150W/50W×シールドビーム4灯  後部4W×LED2灯です。

  大きく分けて、次の2つに分けられます。

○主変圧器3次回路系統
  主変圧器の3次側出力線で、そのまま直接主変圧器の油圧ポンプモータの電源となる系統(延長給電なし)と交流接触器(ACK1)経由で、ユニット単位(T車を含む全8両編成なので、3両、2両、3両単位)で空気調和装置、補助電源装置、 電動空気圧縮機、換気装置や主回路機器のブロアの電源となる系統があります。(ACK1切り、ACK2入りによる延長給電あり)

○補助電源装置を電源とする系統
  補助電源装置APU(Auxiliary Power Unit)は、各低圧用機器用の電源をまとめたもので、静止形変換装置とも呼ばれています。
  図の例では各ユニットに1台ずつ搭載されており、通常は3台並列同期をしていますが、1台故障した場合でも正常運転できるように、つまり2台で編成全体に供給するのに必要な負荷容量を持っています。
  主に、次のような機能を持つ機器を一体構造にしています。
整流装置   交流400Vを直流100Vに変換するもので、この電源自体は瞬停がありますが、バッテリに供給しているため、瞬停時等には逆にバッテリから電気が送られるので、無停電電源になります。
  停電があっても動作する必要がある制御回路の電源や瞬停時のちらつきのないよう蛍光灯の電源等になります。
補助変圧器   交流400Vを交流100Vに変換するもので、架線の電圧変動、瞬停等の影響をそのまま受けるので、ヒーター等あまり品質の要求されない機器の電源になります。
定電圧装置   同じく、交流400Vを交流100Vに変換するものですが、出力電圧の変動範囲を一定以下に押さえて品質を確保したもので、表示灯やコンセントなどの電源になります。

  更に、これらを電源とした次のような系統もあります。
○インバータ出力系統
  前記の無停電直流100Vを電源として、安定した無停電単相交流100Vを作るもので、自動放送装置やAVサービス機器の電源になります。

3. 主な機器の配置

  先ほどの主な機器以外にも車両を走らせるためには、色々なものが必要です。
  それらのほとんどは床下についており、一般の旅客の目に触れることはありませんが、次の図のようになっています。
  電気機器の中には、主変圧器で3t弱など大型で重い機器もあり、その配置は、重量バランス、保守性等を考慮して決められます。車両間にも重量アンバランスがないように考えなければなりません。機器の小型化、軽量化が重要です。
  下の図の例では、T1、M1、M2の3両について記載していますが、8両編成の新幹線電車では、M1、M2の2両で1ユニットを構成しているので、他の電動車も基本的には同じ機器配置になっています。
  しかし、電動空気圧縮機は両先頭車とM1の5号車に、その代わり5号車には補助電源装置が無いなど編成として機器配置を最適化するように工夫しています。

  機器以外にも、ケーブルや空気配管もあり、これらを含めて全て合理的に配置しないと、輪重間のアンバランスの原因になるため、これらの重量管理は大変重要です。

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