1.車両用パワーデバイスのGTO、IGBT 3レベル回路とは 今後の素子は?

1. パワーデバイスの種類

パワーデバイス   新幹線の制御方式は、0系の変圧器低圧タップ切り替え式、100、200、400系のサイリスタ連続位相制御から300系以降はVVVFインバータ制御方式になりました。その主変換装置に使われるスイッチング素子として最近はIGBTという素子を使うことが一般的になっています。
  パワーデバイスの発達は今でも続いており、その適用範囲は右図のようになっているといわれています。
  半導体デバイスには色々な種類がありますが、電力制御に用いるパワーデバイスと呼ばれる素子は主に整流作用とスイッチング作用が利用されます。
  pn接合を持つダイオードは主に整流作用に、npnまたはpnp接合を持つトランジスタや3つ以上のpn接合を有するサイリスタは主にスイッチング作用が利用されます。
  また、トランジスタは、電子と正孔の2種類のキャリヤの働きで動作するバイポーラ形と、それらのどちらか1種類のキャリヤだけが動作にかかわる、ユニポーラ形(MOSFET)に大別され、このうちバイポーラ形はさらに、従来一般にトランジスタという名で親しまれている、 ベース電流駆動形(バイポーラトランジスタ、単にトランジスタと呼ばれます)と、比較的高速度のパワースイッチング用途に最近多く使われだした、ゲート電圧駆動形(IGBT)に分かれます。
それぞれのスイッチング素子は次のような構造、動作原理をしています。

サイリスタGTOサイリスタ MOS FET(電解効果トランジスタ) IGBT
Thyristor(SCR)Gate Turn Off Thyristor Metal Oxide Semiconductor
Field Effect Transistor
Inerted Gate Bipolar Transistor
絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)
  サイリスタは、オン状態とオフ状態の2つの安定状態を保つことができ、その2つの状態間の切換えを行うことができる、3つ以上のpn接合を有する素子と定義されています。
  ゲート電極にある一定以上の電圧を加えるとA−K間に電流が流れます(ターンオン)。
  切る(ターンオフ)するためには、主電流の流れるA−K間に逆電圧を加えて、一旦オフ状態にする必要があります。
  このように、サイリスタには逆電圧を加えるための転流回路が必要であり、自己消弧能力がないため、主回路の構成が複雑です。
  200系などにはこの素子が使われて、連続位相制御による直流出力電圧制御が行われましたが、VVVF制御となった300系には右のGTOサイリスタが使われました。
  サイリスタに自己消弧能力を持たせたもので、ターンオン時は普通のサイリスタと同様、GK間に正電圧の信号を入れます。ターンオフ時には信号を逆転させ、AK間のキャリヤを吸い出して、主電流を強制的に保持電流以下にして遮断するものです。
  ターンオフのためのゲート電流は、主電流の1/3〜1/5程度と大きな値です。
  構造的には、ゲートでターンオフさせるためにカソードの周囲をゲートが取り囲み、AK間の主電流を引き抜きやすくしてあります。
  カソードセグメントは幅が200μm、長さが2〜3mm程度で、制御電流3000Aクラスの素子では、セグメントの数は数千本になります。そこでゲートとカソードに段差をつけ、各カソードセグメントに、1枚の共通電極を圧接しています。
  制御回路が複雑高価なものとなるため、パワートランジスタでは対応できない高耐圧大電力の用途に使われています。
  主回路構成を簡単にするため、サイリスタからGTOサイリスタの適用が進みましたが、更にスイッチング周波数が大きくとれるIGBTに置き換えられつつあります。
  半導体表面にソース、ドレーンという電極を、その中間領域の半導体上には酸化膜を介してゲートという電極を形成します。
  ゲートに正電圧を加えると、図の場合、p形半導体基板の表面部分に基板中の少数キャリヤである電子が引きつけられn形に変わります。この現象を電界効果(Field Effect)による反転といい、表面の薄いn形層を反転層といいます。
  ソースとドレーン領域は電子密度を大きくしてある(これをn+と書く)ので、反転層が形成されると、ソース・ドレーン間を電子が移動できるようになり、電流が流れます(nチャネル)。
  チャネルの厚さはゲート電圧によって変わり、それに従ってドレーン電流が変わります。すなわち、MOSFETはゲート電圧によってドレーン電流を制御するデバイスです。
  MOSFETでは信号電圧によって、ただちにドレーン電流、出力電圧と変化し、入力側に電流が流れないため、消費電力が少なくてすむこと、入力抵抗が非常に大きいことなど、バイポーラトランジスタにない特長があります。
  高周波かつ大容量のデバイスとして開発されたのがIGBTで、多くの分野で従来のパワートランジスタにとって代わっています。
  IGBTはMOSゲートで制御されるバイポーラデバイスで、図の場合、MOSFETの基板であるドレーン層のn+が、コレクタのp+に変わった以外は、縦形MOSFETと基本的には同一構造です。
  コレクタに正の電圧を加えた状態でゲート信号を加えなければ、MOSFETと同様電流は流れませんが、ゲートに正の電圧を加えると、ゲート電極の下のpベース層表面にnチャネルが形成され、コレクタ・エミッタ間はp+n-nn+構造のpn接合ダイオードとなり、それに順方向の電圧が加わった状態ですので、コレクタ・エミッタ間がオン状態となります。
  パワーMOSFETのオン抵抗のほとんどは、高抵抗のn-層によるものでしたが、エミッタから電子が、コレクタから正孔が注入され、n-層に過剰のキャリヤが蓄積、伝導度変調が起こるので、IGBTのオン電圧はMOSFETより大幅に小さくなります。
  鉄道車両用としては大容量、高耐圧化、高速化、低損失化が進められており、現在の主流です。

2. IGBTと3レベル回路

  パワーデバイス用の素子は、小形・軽量化、低損失・高効率化、騒音・高調波やトルク変動防止、信頼性の向上等の観点からサイリスタ→GTO→IGBTと変わってきています。
  GTOとIGBTを使った主変換装置の構成は下の図のとおりです。 GTOでは左図に示すように2レベル回路方式が一般的でした。
  IGBTが登場した頃は耐圧面の容量が小さかったため、入力電圧を2つのコンデンサで分圧し、コンデンサ間の中点電圧に2個直列接続したIGBTモジュールの中間電圧をダイオードを使ってクランプする3レベル方式が用いられました。
  この方式は、高い入力電圧に対応するため以外に、直列接続した素子間でスイッチングに位相差を持たせることにより高調波の含有率を小さくできる特徴があります。
  現在はIGBTの耐圧容量も向上したので、出力電流の高調波低減及び低騒音化を主体とする場合は3レベル、小形・軽量化、低コスト化を主体とする場合は2レベル方式が選択されるようです。
  交流電車では、架線に流出する高調波電流を低減するため、PWMコンバータを採用する場合は3レベル構成とするのが一般的です。

  直流通勤電車 直流通勤電車 新幹線、交流電車
使用素子 GTO IGBT
回路別 2レベル回路 2レベル回路 3レベル回路
概要図
スイッチング周波数450Hz 1000〜2000Hz
モジュール容量4500V 3000〜4000A 2000〜3300V 400〜1200A
電圧、電流波形の
イメージ
特徴 ギザギザ波形のため、
 ・磁気歪音発生大
 ・高調波成分大
 ・モータトルコリプル大
ほぼ正弦波のため、
 ・磁気歪音発生小
 ・高調波成分小
 ・モータトルコリプル小
 ・スナバ回路小型化等による周辺回路減によるコスト減

3. IGBTと非同期PWM制御

   IGBTを用いることによって高速スイッチングが可能になったため、架線の高調波を低減できるようになったほか、低速時のPWMモード切替が不要になり、モータから発生する耳障りな電磁音の音色変化を 抑えることができるようになり、更にキャリア周波数の高周波数化によって騒音周波数が高周波数化されました。
  右の上の図は半波形をいくつのパルスで構成するかを示したもので、GTOによる場合27P→15P・・と順にモードを切り替えますが、IGBTでは中速域まで非同期モード運転となっています。

4. 今後の素子 IEGT

  より高圧のIGBTの検討も進められていましたが、IGBTを高耐圧化するためにはオン電圧の増大をいかに克服するかが問題でした。
  これを低減できるIGBTの発展型として登場したのがIEGT(注入促進形絶縁ゲートトランジスタ:Injection Enhanced Gate Transistor) で、エミッタ側の素子構造を工夫することによって電子注入を促進(IE)し、 GTO並の低いオン電圧特性があり、IGBTと同様に駆動が容易でかつ高い遮断能力を備えた4.5kV級IEGT素子が実用化されました。
  これによって先の図の新幹線でも2レベルインバータの構成が可能になります。

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