17.主変換装置、インバータ、コンバータ、高調波対策、PWM制御とは?

1. 主変換装置

(1) 主制御装置と主変換装置
 直流主電動機交流主電動機
直流電化 〔電圧制御〕
 抵抗制御
 直並列制御
 電機子チョッパ制御
〔弱め界破制御〕
 界磁チョッパ制御
 界磁添加励磁制御
VVVFインバータ制御
(すべり周波数制御からベクトル制御へ)
交流電化タップ制御
位相制御
位相制御+VVVFインバータ制御
PWMコンバータ+VVVFインバータ制御
  車両の制御とは、速度に応じて駆動力、ブレーキ力を必要な値に制御することで、電気車の場合、電動機の制御と同じ意味になります。   その制御方式は、その時代の技術を反映して色々な方式が開発されてきましたが、電気方式(架線電圧)別、主電動機の直、交流別に分類すると次のようになります。
現在は、ほとんどが、誘導電動機を使ったVVVFインバータ制御方式になっています。


  新幹線など交流電車では、コンバータ、フィルタコンデンサ、インバータ、接触器等の主回路機器と無接点制御装置、制御電源などの制御回路機器や冷却装置を一体箱構造とした制御装置を主変換装置(CI)といっており、その主回路は 右の図のようになっています。
  コンバータ(順変換装置)は交流を直流に変換する装置で、インバータ(逆変換装置)は直流を交流に変換する装置ですが、回生ブレーキ時には反対の動作をするため、原理的には同じです。区別するため、コンバータは電力側変換装置、インバータは電動機側変換装置とも呼ばれることもあります。
  右図はコンバータとインバータが1対1ですが、架線電流の高調波抑制のためコンバータを2台にして90°位相差で運転するなど、この構成方法は車両設計の考え方によって色々あるようです。
  1台のコンバータの入力電圧は単相AC1000V前後、 直流中間回路はDC2000〜2600V程度が多いようです。
(2) 変換装置に使用するスイッチング素子
  インバータ、コンバータなどの変換装置は、元となる交流や直流電源を切り刻んで目的とする交流や直流を得るためのもので、大きな電圧の主電流を高速でON、OFFするスイッチが必要になります。
  実用的なスイッチング素子として登場したのがサイリスタで、1957年アメリカのGE社から、SCR(Silicon Controlled Rectifier)という名称で登場しました。サイリスタはゲートに大きな信号電流を加えると導通状態になります。しかし、信号電流を取り去ってもOFFの状態にならず(自己消弧能力がない)、導通状態を継続します。 OFFとするためには、電源電圧を利用して外部から逆電圧を加えて電流を一度0にしてやる必要があり、転流(電流の流れの方向を変える)回路という複雑な回路が必要でした。電源電圧を利用する転流方式の変換装置は他励式変換装置といいます。
  サイリスタは、直流電動機を持つ200系や100系の連続位相制御に使われました。.
  最近は、電源や負荷の状態に関係なくゲート信号により自己転流のできるGTOやIGBTが用いられており、自励式(強制転流式)変換装置といっています。
 
(3) 素子のdi/dt、dv/dt特性と保護回路
  高速スイッチング素子ではゲートに信号を与えてON−OFFしますが、ゲート電流の立ち上がり速度があまり速いと電流がゲート近傍に集中して局部過熱状態になり熱破壊に至る可能性があるため、素子構造を工夫し、臨界電流上昇率di/dtを大きくしています。リアクトルを挿入し、di/dtを抑制する方法もとられます。
  また、OFF状態の素子の電圧をvとすると、その時間的変化率dv/dtがあまり大きいと、空乏層が形成する静電容量に対する充電電流が流れ、ブレークオーバー電圧が低下し、誤点弧を引き起こします。そこで、dv/dtを許容範囲に抑えるため、素子に並列にコンデンサC、抵抗rを並列に接続します。この回路をスナバ回路といいます。
  これらの保護回路は損失の原因にもなるため、低減のための素子改良などが進められています。
 
(4) 電圧形と電流形
  直流電圧を決められた順序で切り取り、この交流矩形波電圧によって負荷電流が流れる電圧形と直流リアクトルによって平滑化された直流電流を順次切り替えて矩形波の電流を供給し、その電流を流すために電圧が決まる電流形がありますが、制御性等から電圧形が使われています。
  最近は、電圧形の一種で、1サイクルの電圧波形を多数のパルス列で構成するPWM(Pulse Width Modulation)形が一般的です。

2. 高調波

  切り刻まれて作成された方形波等はひずみ波であり、 高調波が含まれています。この高調波によって機器類の過熱、騒音や振動の発生、機器の誤作動、誘導障害、損失の増大等を招きます。
  高調波のひずみ波は、フーリエ級数に展開できますが、
 
  直流成分+正弦波成分=直流成分+基本波成分+高調波成分

となります。
  高調波成分は周波数が基本波の5、7、11、13・・・倍(高調波の次数)で、それぞれの電圧の大きさは基本波電圧の1/5、1/7、1/11、1/13・・・の大きさを持つ正弦波の和になります。
  高調波の次数は整流回路の直流電圧では整流相数の整数倍で、単相で2、4、6・・・となり、3相ブリッジで6、12、18・・・となります。また、整流回路の交流側及びインバータ出力交流では、基本相数(脈動率)をpとすれば、高調波次数は
    n=k・p±1(k=1、2、3、・・・)
となり、3相ブリッジ回路の場合、p=6なので、n=5、7、11、13・・・となります。
  高調波対策として、装置側では次のような対策が取られています。
変換装置を並列に接続し(多重化)、位相をずらして出力波形を正弦波により近づける。たとえば、2つのコンバータを並列に接続して搬送波の相差運転を行うことで、pを増やせば、高調波の次数が高くなり、高調波の大きさが小さくなります。
LCフィルタなどフィルタを設ける。この場合、装置が大きくなる、特定の周波数にしか効果がない場合が多いなどの問題があります。
PWM制御を用いることによって高速に制御を行い正弦波に近づける。GTOよりも高速スイッチングが可能なIGBTを用いることによって更にで高調波対策が 進んでいます。パルス幅も一定幅でなく、波形の周辺で狭く中央部で広いパルスとして低次高調波をなくした近似正弦波PWM形が採用されています。
更に、位相を制御して無効電力の補償(力率を1にする)も可能になります。
 

3. PWM制御の原理と特徴

  PWM制御とは Pulse Width Modulation の略で、パルス幅変調といっています。
  入力の直流電圧を切り刻んで出力電圧をパルス状にし、そのパルスの数、間隔、幅などを制御し、目的とする周波数の交流を得るものです。

(1) 直流→交流変換の原理
  右図は、機械的スイッチを用いた場合の 直流→交流変換の原理図で、直流を単相交流に変換しています。
  図のように、4個のスイッチS1〜S4を負荷に対してブリッジに組んでおきます。
  同時にS1とS4を閉じ、S2とS3を開けば、負荷に対してはAからBの方向に電源電圧E が加えられ、実線→の方向に電流 i が流れます。
  次に、T/2秒後に反対にS1とS4を開き、S2とS3を閉じれば電圧はBからAの破線←の方向へと切り替わります。
  このようにS1とS4およびS2とS3の組合せで交互に開閉すれば、AB間の電圧は右上図のような交番方形波の電圧となり、直流電圧から流れの方向が変わる交流電圧に変換できたことになります。
この場合、時間Tが交流の周期となり、その逆数が周波数となります。
  その時電流はどうなるかを示したのが右下図で、一般に負荷には誘導性負荷つまりインダタタンスがあるため、電流は電圧の変化よりも遅れて変化することになり、ある時間(図のφ)、 電流は電圧の方向とは反対の方向に流れて、電力を電源へ変換することになります。 これが無効電力で、この遅れ時間は、負荷の純抵抗とインダクタンスの比率(時定数)で決まります。この遅れ時間が終われば、電流は電圧の方向と同じ方向に流れます。
  cosφを力率と呼んでいますが、後述のパワーディバイスを使うと、φ=0 つまり、力率を1に制御できます。

(2) PWM制御
  1サイクルの電圧波形を分割して多数のパルス列で構成し、そのパルスの数、間隔、幅などを時間的に変化させ、その平均値を正弦波状になるように制御するのがPWM制御です。
  先の図で、スイッチのON-OFFのタイミングを調整すれば、電圧、周波数を変える事ができます。
  下の図は、その概念図で、左側がある時点の電圧出力波形とすると、中央はONしている時間を短くして等価的に電圧を下げた状態、右はON-OFFの間隔を短くして、周波数を変えた(2倍)状態です。破線は方形波を、等価的な正弦波としてみた場合の様子です。
パルス数、間隔、幅などは可変です。
ある時点の電圧と周波数 ONの時間を短(長)くして、電圧を変える ON-OFFの間隔を短(長)くして、周波数を変える

4. PWMインバータ

  車両のインバータは直流を3相交流に変換するもので、VVVF制御の基本となるものです。逆に、電力回生ブレーキ中は交流を直流に変換することもできます。

(1) 単相インバータ回路
  実際のインバータは右図(単相ブリッジ形インバータの例)のようになっており、スイッチング素子とそれに逆並列に接続されたダイオードで構成されています。
  原理図にあるスイッチの作用をするのがパワーデバイスで、GTOやIGBTが使われます。
  ダイオードは、電圧と反対方向に流れる電流を流すためのもので、還流ダイオードといわれています。
  この制御にはPWM制御が用いられますが、単相のPWM出力電圧波形eは右図のように搬送波(carrier wave)と呼ばれる三角波esと基本波に使用する 信号波(signal wave)と呼ばれる正弦波eoを比較してスイッチング素子をON、OFF することにより得られます。 つまり、
eoesのとき、T1T4がON(T2T3はOFF)で、eEd
eoesのとき、T2T3がON(T1T4はOFF)で、e=-Ed
  このようにすると、正弦波状にパルス幅を変化させることができるため、正弦波PWMと呼ばれ、出力に正弦波を望むインバータの制御に使用されます。
  インバータ出力電圧波形は、PWM波形ですが、その基本波と電動機内部電圧Mの間にはφMの位相差があり、この両者の差分がLMにかかる電圧で、 結果的にiMで示される出力電流を流します。このMと交流電流iMが実際にトルクを発生します。
  この図からわかるように搬送波(キャリヤ)周波数はPWM波形のスイッチング周波数と一致します。
  従って、キャリヤ周波数を上げるだけで最低次の高調波の周波数を上げることができ、出力フィルタの小形化が可能になります。
  ここで、正弦波eoの振幅を変えるとPWM波形の基本波の振幅を変えることができます。例えば、eo=0とすれば、eはキャリヤ周波数と等しい方形波となり基本波成分は含まれず、eo=1なら、eEdとなります。
  この値を変調率といい、直流電圧の値、つまり、切り刻まれた交流電圧の波高値に対してどれだけの交流基本電圧が得られるかという割合を示します。

(2) 3相のPWMインバータ回路
  実際に車両に使われる誘導電動機は3相誘導電動機であり、その基本回路とPWM波形は右の図のようになります。
  直流電源Edの電圧は、在来線の場合、直流区間のき電電圧が1500Vなので、1500Vとし、交流区間ではコンバータで交流20000Vを直流1500Vの中間直流電源に変換しています。
  新幹線の場合、電源は交流25000Vですから、それをコンバータで直流中間電源に変換します。その電圧は300系で1900V、E2系で2600V、700系で2400Vとなっています。
  この直流電源から、インバータによって120度位相のずれた3相交流に変換しており、その線間出力電圧は図のような方形波パルス列になっています。
  鉄道車両の駆動用インバータで重要なのは、その出力電圧と周波数を自由に制御することで、それによって電動機の円滑な回転数、トルクの制御(VVVF:Variable Voltage Variable Frequency制御)が可能になります。
  周波数が低い場合はパルスの間隔を広くし、周波数の高い場合は狭くして周波数の低いときより実行電圧を高くし、[電圧/周波数]の比を一定に保てば一定のトルクが得られます。 新幹線では160km/h程度以降は1パルスモードになり、一定電圧になります。
  電流波形は単相の項の図で示すようなギザギザであり、リプル(さざ波)量が過大にならないように、インバータ周波数(電動機の回転数)に対して変調周波数を27、15、9、5、3、1パルスと階段的に切り替え ます(同期PWMモード)が、パルスモード切り替え時に主電動機から発生する磁歪音の音色変化が発生するため、高速スイッチングが可能なIGBTでは中、低速域を非同期モードとしてこれらの問題を解決しています。
  インバータ制御電車の床下音の音色変化を楽しみにしている方たちには気の毒です。
  700系の床下が300系に比較して静かなのはこの効果が大きく影響しているようです。


5. PWMコンバータ

(1) PWMコンバータとは
  コンバータは、交流を直流に変換する変換装置で、電力回生時には逆方向に動作して直流を交流に変換することもできます。
  かつて、交流電化区間を走行する電車は、変圧器低圧タップ制御やサイリスタを用いた連続位相制御によって可変直流電源に変換し直流電動機を駆動していましたが、 誘導電動機を使うのが一般となった現在は、PWMコンバータを使用して一定の直流電源に変換し、それをインバータでVVVF制御するのが一般的になっています。
  サイリスタを用いた位相制御でも電力回生ブレーキを構成することが可能ですが、サイリスタには自己消弧能力がないため、電源電圧を利用する転流(電流の流れの方向を変える)回路が必要になり、他励式変換装置では、主回路の構成が複雑になります。
  PWMコンバータは、自己転流のできるGTOやIGBTを用いており、自励式(強制転流式)変換装置です。
  右の図は、GTOサイリスタを用いたPWM制御コンバータの概要図です。
  自己転流素子を用いた変換装置は電源や負荷の状態に関係なく制御可能であり、力行・回生とも力率を1に制御したり、変調周波数を高くできるので高調波成分も少なくすることができます。
  各素子は、図のようにブリッジ回路にGTOとダイオードが相互に逆向きに並列で接続されていますが、リアクトルLは、主変圧器2次巻線が兼ねています。
  制御の基本は、GTOサイリスタT1〜T4のゲート制御を行い、直流出力電圧が所定の値になるようにコンバータの入力電流を制御するものです。
  このとき、入力電流をほぼ正弦波状に、かつ変圧器の2次電圧と同相に制御可能で、基本波力率を1に保つことができます。

(2) PWMコンバータの制御原理
  右図はPWM制御の原理を示すもので、正弦波状の信号波と三角波状の搬送波を比較することにより図のようなゲートパルスを作成し、GTOサイリスタT1〜T4に加えます。
  この結果、コンバータの交流入力端子には直流出力電圧EdをPWM制御した図のような+Ed、0、−Edのいずれかとなる入力端子電圧が発生し、搬送波の2倍の周波数で制御されます。
  コンバータ入力電圧Ecの平均値は薄い青線のようになり、入力信号波ecに比例します。
  各部の波形を見ると、電源電圧と交流電流は同相すなわち力率1に制御されていますが、PWMコンバータ入力電圧はφACの角度の差があります。この差分は図のリアクトルにかかる電圧によって生じています。
  つまり、コンバータの入力部分ではその電圧と電流が同相になっているのでなく、交流リアクトルの入力側であるEsとIsが同相になっています。
  下図は、二次電圧Es、リアクトル電圧EL及びコンバータ入力電圧Ecの基本波成分の関係を示すベクトル図で、EsはELとEcの和に等しく、入力電流IsはELと直交関係にあります。
  そこで、Ecの大きさと位相を制御することによりIsの大きさと位相が制御されます。 このためには電源電圧位相と電流位相を検出してPWMコンバータの波形を制御してやる必要があります。
  つまり、図のように、EcをEsに対して遅れ位相としたときコンバータは力行運転、Ecを進み位相にしたときに回生運転が行われることになります。 力率は1のみでなく自由に変えることができます。


(3) PWMコンバータの動作
  力行時にコンバータの各素子がどのように導通し、電流が流れるかを見てみます。
  右上の図のコンバータ入力電圧の各位相毎に@ABC・・・と1サイクル分番号を割り振ります。 交流側と直流側の電圧関係により実際にはゲートパルスを与えたGTOが導通せず、ダイオード側が導通する場合があります(電源電圧が反転すると導通する素子が変わります)。

<モードT>
@(T1とT3がON状態) T1はONだが、電流は下図@のように流れ、Lを介しての電源短絡になり、電流は増加します。
A(T2とT3がON状態) 入力電圧と直流コンデンサ電圧が加わってLに印加されるため電流は更に増加します。
B(T2とT4がON状態) @と同様で、Lを介しての電源短絡です。
C(T2とT3がON状態) Aと同様です。
 
このモードは電流増加のみです。

<モードU>
  モードTの時と同様に、各素子のON−OFFの組み合わせによって電流の流れが変わりますが、このモードは電源のLを介しての短絡及びCへのエネルギー注入のいわゆる昇圧チョッパとしての動作を繰り返すため、電流は増減します。

<モードV>
  モードUとゲートパルスは同じですが、電源電圧位相が反転する事により電流経路が変わるもので、モードTと同じく電流増加のみです。

<モードW>
  モードUの裏返しです。

(4) 回生ブレーキ時
  電源側電圧より高い直流電源をもとに、T1〜T4を組み合わせて電源の電圧、周波数、位相にあわせてインバータ運転を行えば架線側に電力を戻してやることができます。
  このとき、パンタ点で力率1に制御することが可能です。

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